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天女の血

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明良は微笑んだままでいる。
「いいよ」
あっさりと許可した。
美鳥の休みたい理由が、もちろん、わかっているのだ。
わかっていて、詮索してこない。美鳥が触れたくないことには触れてこない。
ありがとう、お父さん。
そう胸の中で告げた。
「……じゃあ、また寝てくる」
「うん」
明良がうなずくのを見たあと、美鳥は眼をそらした。
それから、踵を返し、台所を出た。

美鳥が去っていった。
その足音はどんどん小さくなり、やがて、聞こえなくなった。
「圭」
明良は正面に座っている圭をじっと見る。
「ありがとう」
「……俺は礼を言われるようなことはしていない」
本気でそう思っている様子で圭は言った。
とんでもないと明良は思う。
美鳥があんなふうに弱さを見せて甘えてくれた。充分だ。
さっきの美鳥とのやりとりを思い出し、明良は微笑む。けれども、美鳥の身に起きたことなどが頭にあって、かすかに苦い笑みになったが。
圭が立ちあがった。
こちらのほうに歩いてくる。
眼が流し台のほうに向けられているので、そのまま横を通りすぎてそちらに行くのかと思った。
だが、圭は近くで足を止めた。
長身である。
自分よりもずっと大きな身体。
「明良」
その腕があげられる。
強くなるための修練を重ねた結果があらわれている腕だ。
「いくらでも、俺を頼ってくれ」
声に感情はあまりにじんでいない。
しかし、優しさを感じる。
そのうえ、頭に圭の手のひらが置かれたのを感じた。
二度、軽くたたかれる。
髪越しであっても、圭の手の感触が伝わってくる。
自分は子供じゃない。
そう反撥し、けれども、その反撥はほんの少しだけで。
それよりも。
嬉しい、と。
あ。
マズい。
そう思った。
堅く編まれていたものが、ゆるんでいく。
そんな感覚があった。
身体が変化する。
止めなければいけない。止めようとした。
でも、止められなかった。
作品名:天女の血 作家名:hujio