天女の血
四、
暗闇に沈んでいた意識が覚醒する。
もう、時間なのだ。
いつものように朝がやってきたことを、美鳥は感じ取る。
朝はやってくる。
必ず。
どんなときも。
眠って逃避していても、朝はやってきて、いやおうなしに現実と直面させる。
起きる時間だ。
そう自分に言い聞かせると、まぶたを開け、まだ寝ていたい気持ちを振り切って身体を起こした。
薄暗い中、ベッドから離れる。
部屋を出た。
美鳥の部屋は二階にある。
重い足取りで階段をおりた。
朝食を作らなければならない。
台所に行く。
そして、驚いた。
いつもならまだ自室で寝ているはずの明良が台所のイスに座っている。そのテーブルを挟んで向かいには圭が座っていた。
圭は家に帰らずに泊まったようだ。
ふたりの眼が美鳥に向けられる。
美鳥は戸惑う。
直後。
「おはよう」
ふたりの挨拶する声が重なった。
明良は微笑んでいて、圭の顔には特に表情は浮かんでいないが冷たい印象はない。
「美鳥」
穏やかに明良は言う。
「今日はまだ寝ていていいよ。朝は圭が作ってくれるってさ」
名を挙げられた圭が同意するようにうなずく。
明良が作らないのは、やりたくないからではなく、味覚オンチの自覚があるからに違いない。
ふたりとも美鳥を気遣っている。
だからこそ、ふたりは美鳥よりも早く起きて、台所で待っていたのだろう。
胸に、なにかがしみたように感じた。
少し痛い。
「お父さん」
呼びかける声は揺れて、弱々しいものになった。
「今日、学校、休んでいい?」
学校に行く、家の外に出る、それを想像すると、恐い。
しっかりしなければと思うのだが、台所で待ってくれていた明良を見て、つい甘えたくなってしまった。