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天女の血

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「それに」
結依は続ける。
「奥野はそちらに借りがある」
借り。
なんのことか、正樹はすぐにわかった。
鬼の一族は鬼であるという理由だけで退治しなければならない存在だと見なしている集団に狙われている。
これについては歴史書をひもとけば無理がないとも言える。
日本書紀の神代紀には、大国主神の国譲り後に高天原から遣わされた神が様々な従わない鬼神を誅した、とある。
鬼は誅すべき存在。
そう信じている者たちがいる。
彼らにとってそれは疑いようのないことで、信仰のようなものであり、それだけにこちらとしては厄介だ。
特に害をなしていないはずなのに、排除しようと攻撃してくる。
また、強固な信念に支えられて鍛錬し、鬼に対抗できる手段を身につける。
手強い相手だ。
竹沢一族も彼らから攻撃をしかけられて戦ったことが何度もあった。
そして、二年ほどまえ、奥野がその集団に狙われた。
奥野は弱い一族ではない。
しかし、敵方は力を蓄え周到に準備をしていたらしく、奥野は苦戦し、死傷者が続出した。
それを知り、正樹はすでに竹沢の頭領であったので、奥野とともに戦うことを決めた。
「あのときも言ったはずだけど、貸したつもりはないよ」
正樹は淡々とした口調で返事をする。
「彼らは鬼を忌み嫌い、こちらがなにもしなくても、攻撃してくる。竹沢も過去に被害を受けている。遺恨がないとは言えない」
あのとき、正樹が奥野とともに戦うことを宣言すると、一族の中からは反対意見も出た。
だが、それでも押し切ることができたのは、皆の胸にはあの集団に対する怒りがあるからだろう。
「だから、ともに戦った。君たちを助けたわけじゃない」
あの戦いで正樹は鬼の力を使いすぎて一週間ぐらい寝こんだ。今日、美鳥に話したのはそのときのことである。
もっとも、その成果はちゃんとあった。
あの集団の本拠地を壊滅させた。
それに、あれ以来、彼らはおとなしくしている。
「それならば、今回の件も同じ」
結依が凜と言い返してきた。
「鬼を研究材料にする者たちは、我らにとって脅威だ。竹沢だけの問題はない。それゆえ、貸し借りは発生せぬわ」
正論である。
作品名:天女の血 作家名:hujio