小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

天女の血

INDEX|128ページ/146ページ|

次のページ前のページ
 

鬼の一族の頭領については、その一族によって異なり、竹沢は実力主義だが、男系の豊原はたいてい長男からそのまた長男へと引き継がれるようだ。
けれども、女系の奥野の場合、長女からそのまた長女に引き継がれるとは限らない。
選ばれるものではなく、頭領になる者として生まれついている。
頭領になる者は結依のように十代前半で身体の成長が止まるのだ。
次の頭領は頭領の子供ではない場合が多い。
十代前半で歳を取らなくなり、一般社会に出ることが少なくなるせいか、奥野の頭領が結婚や出産をした例はあまりない。
「そして」
結依の声は落ち着きを取りもどしていた。
「市川美鳥を引き受ける理由があり、彼女を庇護下における家が、もうひとつ」
春日家の話は終わりにしたらしい。
「竹沢」
ふたたび、結依の大きな眼が向けられた。
いつもの無表情だ。
「竹沢は豊原ほどではないが充分な財がある。市川美鳥を完全に護り隠すことができるはずだ」
情報の奥野が竹沢の財力について調べていないわけがない。
竹沢は大都市の一等地に不動産をいくつも所有していて、手堅い相手に貸し、その賃貸料だけでも莫大な収入がある。
「本来ならば、竹沢は市川美鳥には関与しない。だが、今の状況であれば、使える駒として一族に引き入れる理由がある」
今の状況でなくても、実は、美鳥を竹沢に入れる理由はある。
美鳥には、消耗を回復させる能力、あるいは、力を与える能力がある。
しかし、そのことを正樹は他人に知らせるつもりはない。
「さらに、その理由が目くらましになり、これまで隠されていたことを隠したままにしておける。美鳥の実の父は豊原宜也であることや、春日明良が家出をした真の理由を話さないままでいられる」
結依の眼差しが鋭くなる。
それを正樹は静かに見返す。
「市川美鳥の引受先としては、竹沢が最善」
結依が問いかけてくる。
「そう思ったのだろう?」
「僕はそんなに人が良くないよ。彼女を勧誘したのは親切心からじゃない、竹沢にとって利があると考えただけだ」
「では、美鳥にその出生や春日家の秘密を話したか?」
「話したところで、僕にはなんの得もない」
「話せば、美鳥はショックを受け、彼女をだましていたまわりと切り離しやすくなっただろう。竹沢の支配下に置きやすくなっただろう」
その指摘は的確。
正樹は言い返せなくなった。
すると。
「やはり、おまえは甘い」
結依は言う。
「甘い。だからこそ」
相変わらずの無表情だが、見すえてくる眼は力強い。
「信じられる」
正樹は戸惑った。
からかっているのか、非難しているのか、どちらかだと思っていた。
けれども、結依が続けたのはそれらとは逆のことだ。
また結依の紅唇が動く。
「今回の件、奥野は竹沢に協力する」
奥野の頭領として、きっぱりと宣言した。
作品名:天女の血 作家名:hujio