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天女の血

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市川明良と豊原宜也が会うようになったのは、市川律子がこの世を去ってからだ。
つまり、九年、その関係は続いている。
長い年月だ。
慣れか、あるいはストックホルム症候群のようなものか、市川明良の豊原宜也への態度は軟化しているように見える。
奥野の者のようにふたりの会話を盗み聞きすることはできなくても、ふたりが親密な関係にあるのを感じた。
ふたりでいて、市川明良は怯えていなく、よそよそしくもなく、普通に話をしていた。
豊原宜也に対して、むっとしたり、笑ったりと、自然な表情を見せていた。
そして、豊原宜也は。
現在の豊原の頭領の長男であり、鬼としての強い力を持ち、美形と言える外見をしている。
だが、正樹ではなく修一に近い感じで、きりりと引き締まった男前な顔立ちであり、長身で、体格も良い。
今は大企業の重役で、それもあってか、無表情で立っているだけでも威厳が漂うぐらいだ。
その宜也の鋭い眼が、市川明良に向けられた眼差しが、ふと、驚くほど優しくなるときがあった。
表情も優しくなった。
相手に深い愛情を抱いていることが伝わってくる表情だった。
他の鬼の一族の者が見ていることに気づいていないのだろう。
いや。
違う。
気づいていたのかもしれない。
それでも、かまわなかったのだろう。
見られても、かまわなかったのだろう。
完全にくるわされている。
その結依の言葉どおりだ。
豊原宜也は市川明良への愛情を隠す気がないのだ。
真っ直ぐで、深い愛情。
その愛情を向けられている明良に、それが伝わっていないはずがない。
「あれは市川明良以外とは結婚しないつもりでいるのだろう」
結依は言う。
「そして、市川明良の承諾が得られれば、明良のために女の戸籍を用意して、すぐに籍を入れるのだろうよ」
それに対して、正樹は返事せずにいる。
しかし、内心では同意していた。
返事しなかったのは、大きな問題があるからだ。
市川明良の承諾。
それに至るまでには、乗り越えなければならないことがある。
まず、過去に豊原宜也がしたことをゆるせるのか。
それから、女として結婚することになれば、娘の美鳥に隠していたことを話さなければならなくなる。
市川明良の承諾を得るのは非常に難しいだろう。
作品名:天女の血 作家名:hujio