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天女の血

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「でも、豊原宜也に隠す気はないようだ」
「ああ」
結依はうなずく。
「あれほど目立つ相手と外で堂々と会っているのだからな」
「なにしろ、相手は天女の美しさだからね」
豊原宜也が相手と会っているときの様子を思い出す。
遠くからだが、正樹も画像などではなく直接に見たことがあった。
「あの美女はだれか。興味をひかれるのは自然だろう。それで調べてみて、驚いた」
正樹の頬にふっと笑みが浮かんだ。
「豊原宜也と会って、帰る途中に、美女は男に変わってしまった」
「竹沢の」
その結依の呼びかけは、竹沢の頭領の略だ。
「驚いたとは意外。竹沢の者は異性に変身する能力があるのだろう」
正樹は軽く笑い、けれども、なにも言わずにおく。
竹沢の中でも鬼としての力が強い者は、たしかに、異性に変身する能力を持つ。
そして、最強の正樹は完全に女性に変身することができる。
ただし、見た目の年齢はそのままで、面影も残る。
子供や老人、まったくの別人には、変身することができないのだ。
そのため、美しい青年である正樹が異性に変身すると絶世の美女になり、通常でも目立つのがよりいっそう目立つことになる。
変身できても、目立ちすぎて潜入などには向かず、男相手の色仕掛けは洒落にならないと一族から止められているし、周囲の者たちの反応を楽しむぐらいしか使い道がない。
「だから最初は鬼の一族の者かと思った」
竹沢の者ではないにしても、他の鬼の一族にも変身能力がある者がいるのかと思ったのだ。
「でも、違った」
豊原宜也が、月に一度か二度、会っている相手。
それは。
「市川明良。市川律子と結婚するまえは、春日明良。天女の末裔である春日家の者だ」
結依はまたうなずいた。
しかし、黙っている。
竹沢がどこまで知っているのかを探っているようにも見える。
「それ以前から、天女の末裔が実在していることは知っていた。でも、詳しくは知らなかった。だから、調べた。天女の郷は閉鎖的で、なかなか難しかったけどね」
正樹は話を続ける。
このぐらいのことを奥野が知らないはずがないのだ。
「市川、いや、春日明良は高校を卒業した十八の春に家出をして、天女の郷を離れた。そして、その一年後に、娘の美鳥が誕生し、市川律子と結婚した」
どうして明良が家出したのか。
それについても見当はついている。
だが、今はそれについては置いておく。
「美鳥の出産の際、市川律子は出産育児休暇を取得している。それは、めずらしくないことだ。でも、なぜか、律子は知り合いのいない場所に一時的に越して、出産した」
結依はあいかわらず静かに話を聞いている。
知っていることを確認しているだけなのだろう。
「その出産した地にも行って調査した」
実際に行ったのは正樹ではなく、竹沢一族の者だ。
「一時的にしかいなかった律子のことを、まわりの者はよく覚えていた。その理由は、美しかったからだ」
あれほど美しいひとは他にいない、と言う者もいたらしい。
「顔写真を見せて、確認をした。皆、これがその市川律子だと証言した。だけど、その顔写真は市川律子のものではなかった。豊原宜也と会っているときの、女性体化した、市川明良の写真だ」
それは、つまり。
「市川明良は美鳥の父親じゃない、母親だ」
作品名:天女の血 作家名:hujio