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天女の血

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座敷は十畳。
床の間には、軸が掛けられ、芍薬の花が生けられている。
結依は部屋の中央にある机の近くまで行くと腰をおろし、用意されていた座布団に座った。
その正面にあたる場所に、正樹は座る。
どちらも綺麗な所作だった。
少しして、ちょうど良い頃合いだと判断したらしい滝川がお茶を持ってきた。
結依はふっと表情をゆるめ、優雅に頭を下げた。
滝川も微笑みを返す。
それから、礼儀正しい態度を崩さないまま、座敷から出ていった。
また正樹と結依はふたりきりになる。
「……会いにきてくれて、嬉しいよ」
正樹は結依に笑顔を向ける。
けれども。
「たわごとを」
結依は素っ気ない。
無表情にもどっている。
「用がなければ来ぬわ」
「じゃあ、なんの用かな」
「例の組織と、あのいまいましい吸血鬼のことに決まっている」
それはそうだろう。
正樹にしても、結依が用もなくただ会いたくてやってきたとは思っていなかった。
用件についても予想どおりだ。
とぼけたのは、やりとりを楽しみたかったからである。
結依は眼を細めた。
「市川美鳥に会ったそうだな」
これは予想外だ。
内心、驚く。
正樹はその驚きをできるだけ顔に出さないようにして、微笑む。
「さすが、情報が早い」
しかし、早すぎる。
「もしかして、君たちは僕の行動を見張っているのかい?」
君たちと言ったのは、奥野一族全体をさしている。
奥野の特色は情報収集能力の高さだ。
女系で、鬼の血は女にしか受け継がれないらしく、くノ一集団と陰で呼ばれることもある。
彼女たちは、老いも若きも、頭領である結依を深く慕っている。
そして、正樹については、結依様をたぶらかそうとする悪い虫、と認識し、うとましく思っているようだ。
正樹はその美貌で老若男女問わず魅了し、特に女性にはかなり効果があるのだが、彼女たちは例外である。
彼女たちにとっては、結依様が世界で一番美しいのだ。
「常ならば、そんなつまらぬことはせんが、今は事態が事態だからな」
はっきりとではないが、結依は認めた。
「そう、じゃあ、僕はうかつなことができないね」
行動を見張られているのは、やはり、気持ちの良いことではない。
その正樹の気持ちを見透かしたように、結依は言う。
「市川美鳥を知っているということは、そちらも豊原の嫡男を探っていたということだろうが」
「まあね」
正樹も認めた。
他の一族の頭領クラスの情報、特に弱点をつかんでおきたい。
だから、豊原の嫡男の行動を見張っていた時期もあった。
作品名:天女の血 作家名:hujio