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天女の血

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通常なら、一瞬。
それで相手の意識を自分のものにしてしまえる。
しかし。
修一の眼が赤く光る。
「っ……!」
歯を食いしばり、精悍な顔をゆがめ、意識を持って行かれそうになっているのに抵抗している。
完全には支配できていない。
だが、正樹はその事実に満足する。
修一には自分の死んだあとに竹沢の頭領になってもらうつもりでいる。
だから、自分に対抗できるぐらいであってほしい。
「正樹」
どうにかといった様子で、修一は言葉を吐き出す。
「力をムダに使うのは、よせ……!」
けれども、そう言うのが精一杯であるようだ。
修一は自分を支配しようとする強い力と戦っているせいで動けずにいる。
打ち勝つことはできないらしい。
それは、しょうがない。
正樹は思う。
自分は最強なのだから。
「そうだね」
穏やかな声で同意したあと、正樹は茶封筒を持って立ちあがった。
その顔には笑みが浮かんでいる。
優雅な笑みだ。
宝石を思わせる綺麗な眼で、イスに座ったままの修一を見おろす。
「君にムダな力を使わせるわけにはいかない」
やわらかく笑っている。
しかし、その姿からは強い気が漂っている。
威厳がある。
おまえがならなくてだれがなる。
そう言われて、頭領になった。
頭領選びの際に、修一の名も挙げられた。
だが、やはり、正樹が選ばれた。
最強の正樹。
その正樹以外にだれが頭領になるというのか。
それが、竹沢一族の総意だった。
正樹は歩きだす。
部屋の出入り口のほうに向かう。
やがて、ドアのまえで立ち止まる。
「正樹!」
修一が呼びかけてきた。
「俺はおまえが死ぬのを見たくないんだ」
苦しそうな声。
正樹はそちらを振り返る。
「そう」
相づちを打った。
そして、続ける。
「でも、君はそれを見ることになると思うよ」
修一に向かって微笑んで見せた。
鬼の中でも群を抜いて美しい鬼の、美しい笑みである。
まるで満開の桜が風に舞い散ったときのような、そんな華やかさだ。
見慣れているはずの修一が凝視している。
正樹はすっと眼をそらした。
それから、ふたたびドアのほうを向き、部屋の外に出た。
作品名:天女の血 作家名:hujio