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天女の血

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正樹は客間に向かう。
なにしろ広い家であるので、部屋数も多い。
客間も複数あるのだが、修一が待っているらしいのは玄関から近い洋室である。
正樹はその洋室に入った。
部屋の中には歴史と職人の誇りを感じさせる調度品がある。
そのひとつである重厚な印象のイスに、修一が腰かけていた。
鬼はその容姿で人を惑わせることがある。
よって、鬼としての力が強い者ほど美しい。
最強と言われる正樹の美しさは、竹沢一族だけでなく他の鬼の一族を合わせても、群を抜いている。
鬼としての力が強い修一も、美しい容姿の持ち主である。
ただし、正樹の美しさが典雅なものであるのに対し、修一の容姿は雄々しい美しさだ。
その座っている姿からは威厳を感じる。
頭領の選考で、正樹は実力では他を圧倒しているので無風で決まりそうなところが、修一の名が一応挙げられたのはそのあたりが理由であるらしい。
要するに、威厳という点では、正樹は修一に負けているのだ。
けれども、今の竹沢の頭領は自分。
修一の迫力に押されるわけにはいかない。
正樹は修一に声をかける。
「やあ」
笑って見せた。
長年この顔とつき合っているので、この笑みが華やかで他人の心を動かすものだと知っている。
しかし。
修一は厳しい表情を崩さない。
ジロリと正樹を見る。
「今までどこに行っていた」
鋭く問いかけてくる。
「また女遊びか」
半分正解で半分不正解だと、正樹は思った。
女性に会いに行ったのは正解だが、遊んでいたわけではない。
修一とはテーブルを挟んで向かいのほうに行った。
そして、そこにあるイスに座る。
「昨日の夜、豊原の嫡男から電話があって、あの吸血鬼を一刻も早くどうにかしろとせかされた」
正樹がそう説明すると、修一は眼を細めた。
「豊原が?」
豊原は鬼の一族のひとつである。
さらに、一般社会においては財閥のひとつとして認識されている一族だ。
「あそこは自分たちの一族のことに他の一族に介入させない代わりに、めったに他の一族のことに口を出してこないじゃないか」
「まあね」
それでもあえて口を出してきたのには、もちろん、それなりの理由がある。
正樹の脳裏に美鳥の顔が浮かんだ。
修一も竹沢の中枢にいるので、豊原と美鳥のつながりを知っている。
だが、それについては触れないことにする。
「それだけ、この件が鬼全体にとって脅威だってことだろう」
嘘をついた。
もっとも、この件が鬼全体にとって脅威だというのは嘘にはならないはずだ。
「……そうだな」
修一は納得したらしい。
その眼が伏せられた。
表情が暗く重いものになる。
無理もない。
組織に捕らえられて研究材料にされた挙げ句に命を落とした鬼は、修一の三つ年下の弟の祐二なのだから。
作品名:天女の血 作家名:hujio