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天女の血

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だが、聞かないでおく。
それほどこだわることではない。
建吾は公園から歩道に出た。
隣の道を車が走りすぎていく。
「場所は公園でしたが、木の葉の陰に隠れるように監視カメラが設置されていました」
「へえ」
十兵衛は予想外のことを言われたような声をあげた。
そして、続ける。
「やっぱり、アイツら、趣味悪ィな」
軽い口調だった。
けれども、その声には不穏なものが含まれているように感じた。
嫌悪。
そして。
怒り。
監視カメラが設置されていたということから、十兵衛も、嫌な推測が現実味を帯びてきたのに気づいただろう。
組織は自分たちが作り出した吸血鬼の所在を把握している。
そのうえで、捕まえない。
おそらく、観察を続けている。
彼らは捕まえようと思えば捕まえられたはずで、捕まえていれば、起こらなかった事件がある。
それについて怒りを感じているのなら、十兵衛は絶対にあちら側にはまわらない。
保身にも走らないだろう。
こちら側に力を貸してくれるに違いない。
要員のひとりと見なせる。
敵方についても、まだはっきりとではないが、ある程度はわかってきた。
さて、この先どうなるのか。
考えてみて、しかし、残念ながら予想できなかった。

延々と塀が続いている。
その内側には、純和風の家が建っている。
広い敷地には家がひとつあるだけではなく、離れがあり、茶室があり、蔵もある。
庭もたっぷりとあり、きちんと手入れされた状態で、四季折々の風情が楽しめるように趣向が凝らされている。
表札には、竹沢、とある。
ここは、竹沢一族の本家の屋敷である。
竹沢の力はこの町全体に及ぶ。
竹沢に逆らったらこの町では生きていけないと言われ、竹沢王国との呼び名もある。
その頂点に立つのは、竹沢本家の当主、竹沢正樹だ。
正樹は薄闇の沈む前庭を進み、灯りのともる玄関のまえに立った。
立派な玄関である。
だが、正樹にしてみれば見慣れたものでしかない。
家の中に入った。
使用人に出迎えられる。
「おかえりなさいませ」
竹沢本家に住み込みで働いている家政婦だ。
働くようになってから、長い。
歳は五十を過ぎている。
彼女も竹沢一族の者ではあるが、鬼としての力をほとんど持たず、使わないため、命を削られることもないのだ。
「修一さんが来られています」
客の存在を告げた。
修一の父は正樹の父の兄だ。
つまり、修一は正樹の従兄弟である。
歳は正樹よりひとつ年上の、二十五。
正樹の父の死後、新しい頭領の選考が一族で行われた際、正樹と修一が候補になった。
正樹が最強であるのであっさり正樹に決まったが、一応とはいえ名が挙がるほど修一は鬼としての強い力を持っている。
そのため、発言力も強い。
「へえ」
正樹は美しい顔を曇らせはしなかったが、浮かない気分になった。
鬼の一族はそれぞれ家風のようなものがあり、そういったものが厳格な一族もあるのだが、竹沢は寛容というか自由なのだ。
老若男女問わず、頭領である正樹に遠慮無く意見してくる。
修一はその筆頭だ。
またなにか注意されるのだろうか。
嫌な予感がした。
作品名:天女の血 作家名:hujio