天女の血
ふたたび思い出していた。
家庭科室でのこと。
美鳥が泣いた。
幼い頃に、自分が護ると決めた相手だ。
その思い出はずっと胸にあり、綺麗なままであったので、逆に、心配でもあった。
時間が年単位で流れていくことで、あの少女はすっかり変わってしまったのではないかと。
けれども。
もちろん、見た目は変わっていた。成長していた。
だが、本質的な部分は、幼い頃に護りたいと思ったところは、変わっていなかった。
その相手が泣いたのだ。
しかも、美鳥はすぐに泣くタイプではない。めったに泣かないほうだろう。
それなのに泣いた。
どれほどつらかったのだろうかと想像すると、胸が痛む。
自分に対して腹がたちもする。
先生に呼びだされたと聞いて、疑わしく感じるような状況ではなかったものの、それでも、防ぐことはできなかったのだろうかと思う。
後悔。
そして。
怒り。
自分に対する怒り、それから、美鳥を襲ったという鬼に対する怒り。
だが、それよりも。
今、建吾を観察している者たちに、憤りを感じる。
美鳥が泣いた理由、その根本には彼らがいるのだ。
建吾は監視カメラのレンズに強い眼差しを向ける。
ふだんの建吾は、外見がどうしても目立ってしまうが、態度は控えめなほうである。
だが、戦いになると一変する。
攻め気性があらわれる。
その身にまとう雰囲気も変わる。
他を圧倒するぐらいの強い気を漂わせる。
その気は、王気、にも似ている。
今も、そうだ。
覇者のような気を発しながら、監視カメラのレンズをにらみつける。
たとえレンズ越しであっても伝わるだろう。
その強さが。