天女の血
「アイツらは、自分たちの開発した武器の品質については責任を負うが、販売後に武器がすることには責任を持たないそうだ」
低く、不機嫌そうに、十兵衛は言う。
「そりゃあ、たとえば刀で人が斬られたとしても、その刀を作った刀鍛冶に責任はねえ。だが、アイツらの場合、それとは、なんか違う気がするんだよ」
なにが違うか。
彼らは武器の開発のためなら、法を、倫理を破る。
越えてはいけないはずの境界を、あっさりと越えてしまう。
そんなところだろうか。
「……まァ、それはともかくとして」
十兵衛は話を元にもどす。
「どうやら俺は厄介な連中から警告されたらしい」
警告されたのは、その存在を無視できないからだろう。
さらに、簡単に排除できないとも思われているからだろう。
その強さを認められているのだ。
「それで、どうしますか?」
建吾は冷静な声で問う。
「この件から手を退きますか?」
「まさか」
即座に、十兵衛は否定する。
「手ェ退くつもりはねえ。俺は自分のやりたいことをやりたいようにやるさ」
その語気は鋭かった。
建吾は、内心、ほっとした。
圭との話し合いで、十兵衛をこちら側の要員にすると決めている。
まして、その実力が犯罪組織からも一目置かれるほどのものだと判明した今となっては。
味方のままにしておきたい。
「俺はバイトの関係で、あの吸血鬼がらみじゃなく、ヤツらに知られてたわけだが」
なぜアルバイトの関係で犯罪組織に名を知られ、一目置かれるようになったのか。
聞いてみたくなったが、今はやめておくことにする。
「俺があの吸血鬼と遭遇したことをつかんでるのなら、アンタがあの吸血鬼と遭遇したことも、ヤツらは知ってるのかもしれねえ。なら、アンタも、ヤツらに眼ェつけられたかも知れねェぞ」
「ああ」
建吾は少し笑う。
「そうですね」
進む先にある公園から出てきた男たちを見た。
見た目で判断してはいけないのかもしれないが、ガラの悪そうな男たちだ。
しかも、去っていかずに、建吾を見て、行く手をふさぐように肩を並べて立っている。
なんというタイミング。
おかしかった。
「今ちょうど、不穏な雲行きになりました」
「相手は何人だ」
「七人です」
「ちょっと多いな。助けに行こうか」
「いえ、間に合わないでしょう」
十兵衛が駆けつけてくる頃には決着がついているだろう。
「それに、問題ないです」
男たちを眺めながら、建吾はあっさりと言った。
「そうか」
十兵衛はこだわらなかった。
そして。
「Good luck.」
綺麗な発音で告げ、電話を切った。
建吾はまた少し笑う。
幸運を祈るつもりはない。
そんなものは必要ない。
実力さえあれば。
そう思いながら、建吾は携帯電話を仕舞った。
「よォ」
ひとりが声をかけてくる。
ニヤニヤと笑っている。
「アンタ、いいツラしてんな。ちょっと俺たちにつき合ってくれねえか」
多勢に無勢。
それに、これまでそれなりに場数を踏んできて自信もあるのだろう。
七人は余裕の表情を向けている。
だが。
幸運を祈らなければならないのは彼らのほうだ。
そう建吾は思った。