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天女の血

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「まァ、そりゃそーだよな。アイツは俺やアンタみてェに強いわけじゃねえ。それで吸血鬼事件の犯人に襲ってこられりゃ、普通だったら、一回目でダウンしたっておかしくねーもんなァ」
十兵衛が話しているのは美鳥のこと。
現在、美鳥は寝こんでいるといっていい状態である。
家庭科室で美鳥と合流したあと、建吾は圭と連絡を取り、車で学校まで来てもらえるように頼んだ。
そして、圭がやってくると、その車に美鳥を乗せ、家に帰った。
いつものように電車で帰るのではなく車を使おうと建吾が判断したのは、そのほうが安全であるのと、美鳥の受けた精神的ダメージが大きいと見て取ったからである。
美鳥をこれ以上、疲れさせたくなかった。
だが、美鳥は自宅に帰ると、家庭科室でなにがあったのかを話した。
竹沢という鬼の一族の頭領には他人を支配する力があり、その力に支配された先生に家庭科室に呼びだされた。
その先生を人質に取られたような状況になり、襲われた。
けれども、やめてほしいと頼んだら、やめてくれたので、未遂に終わった。
また、その鬼の一族の頭領は、吸血鬼事件の犯人の正体について教えてくれた。
高度平和機器開発機構、という組織に、竹沢一族の鬼がさらわれて研究材料とされた結果、ただの人であった者に鬼の能力が与えられた。
しかし、鬼はしない吸血をするのは、人為的に鬼の能力を持つことになったことによる副作用ではないか。
それらを話し終わってから、美鳥は自分の部屋に行った。
一連のことで美鳥がどれだけショックを受けているのかを、建吾は知っている。
だから、感心した。
同時に、そこまで頑張らなくてもいいのにとも、思った。
余計な心配なのかもしれないが。
「なんか、力づけてやれたらいいんだけどな。でも、今はゆっくり休んだほうが良さそうだし、やめとくわ」
十兵衛はあっさりと言ったが、その声には思いやりが感じられた。
今の電話をかけてきたのは十兵衛だが、先に連絡を取ったのは建吾だ。
市川家にいるときに、十兵衛に電話した。
電話するまえに、建吾は圭と話し合った。
話し合った結果、十兵衛をこの件に巻きこむことに決め、だから、知らせることにしたのだった。
「……それにしても、コウヘイキ、か」
十兵衛は高度平和機器開発機構の略称を口にした。
市川家にいたときに建吾が十兵衛にその組織について美鳥から聞いたことを話したが、それ以前から十兵衛はコウヘイキについて知っているようだった。
「俺はちょっとうさんくせェ探偵事務所でバイトしてるんだが、その関係で、コウヘイキとつながりのあるヤツらと戦ったことが何回かある」
ちょっとうさんくさい探偵事務所。
それについて追求してみたくはあるものの、そんな場合ではないので、建吾は黙っている。
「まあ、そんなわけで、ヤツらのことは間接的に知ってた」
十兵衛の声がわずかに重くなる。
「ヤツら、昨日、俺のバイトしてる探偵事務所に来たらしい」
「それは一体」
どういうことなのか。
「吸血鬼事件の犯人を捜してほしいって依頼してきたそうだ。所長はヤバすぎると判断して依頼を断ったらしいが」
自分たちの研究室から逃げた実験体を見つけたいと思い、その捜索を探偵事務所に依頼する。
不自然ではないような気がするが、どこか引っかかるものを感じる。
「それを聞いたときは、そのままにとらえてた。だが、あとで考えてみたら、違う気がしてきた」
十兵衛も今の建吾と同じように引っかかりを覚えたらしい。
「事務所に仕事の依頼をしたのは見せかけで、本当の目的は、俺に警告するためだったのかもしれねえ」
厳しい声で、続ける。
「俺にこの件から手を退けってな」
作品名:天女の血 作家名:hujio