【勾玉遊戯】inside
三条は、柚真人にそういい募った。
――クラヒメだかなんだかしらないけど。でも、父さんも、母さんも、じいちゃんも、どうかしてる。得体の知れない化け物でも蔵っで飼ってるみたいに怯えてさ……。妹のことなんか、これっぽちも心配してやってないんだ。
だから、なんとかしてくれ、と。
――お前、神社の跡継ぎだろう。祟りとか、呪いとかって詳しいんだろう?
頼むよ、あの蔵の扉を、開けるにはどうしたらいいんだ?
三条の家族は、祖父と両親三代五人。その中で、自らの家の蔵に伝わる奇怪な伝説を信じられなくなりつつあるのは、祐一ひとりなのだという。そんな話をこの期に及んで頑なに信じ続けることができる両親たちが祐一にはとても信じられなかった。
――死んじまうだろ? いつまでも閉じこめるとくわけにいかないだろ?
三条の言い分はもっともだった。
――どうすれば、その……変な化け物の祟りとか、避けられるんだろう?
「しかし奇妙ですね。その少年の話が事実だとすれば妹さんが無事であるはずはありませんが」
「やっぱそうなの? なんで?」
飛鳥が訊く。優麻は茶を啜ると、嘆息して言った。
「死んでしまいますよ。東京の一月の夜の気温、どれくらいだと思ってるんです、橘君」
「さあねえ……」
「下手すれば氷点下でしょう。大人だって眠ってしまえば一晩で凍死です」
ふうん、と飛鳥は相槌をうつ。
「そんなもんなんだ?」
「ええ。それに……そんなに恐ろしいのでしょうか、その伝承が?」
湯飲みを掌に押し包んで、優麻は穏やかに柚真人を見遣る。
対する柚真人は、テーブルの上の食器を重ねながら、ううん、と唸った。
「それとこれとは別にして普通は……、あくまでも普通な。自分の子供だろ、心配しないか?」
「ええ、そうですね。真冬ですし、どう考えても小学生の女の子では体力的にも――」
「……またそういう怪しい話に足突っ込んでるの、ふたりとも? いいかげんにしてくれないかな、兄貴もさ……」
とは司の言葉だ。
司は、厳しい一瞥で兄を睨む。
もっとも、兄の方は全然動じていないのだけれど――それがまた、腹立たしいところだ。
「聞いてるの?」
「はいはい」
「……大概にしてよ、本当に」
柚真人は、それにはわずかに肩を竦めただけで、続けた。
「三条の話では、家族は頑として蔵の扉を開けようとしないらしいんだ」
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙