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ＡＣＴ，３

「なんでしょう、その『クラヒメ』様、というのは？」
　と、優麻が言った。
「『蔵』に、『姫』と変換されるんですか？　聞いたことありませんね」
「それがねえ。ま、三条に言わせると『三条家の座敷童』みたいなもんらしいんだよね。家の守り神ってやつ？」
　と、橘飛鳥。
「ふうん……、あるんだ。今時そんな物、うちの家ぐらいだと思ってた」
　皇柚真人の一歳違いの妹――司が、神妙な顔で頷く。
「今時って、司ね……」
「お、柚真人が悲しくなってるぞ」
　司と柚真人の家である皇家は、古式ゆかしい神道を現代にまで伝える由緒ある家系である。だが、司にとっては形骸化したしきたりと儀式を細々と守る、古風な旧家でしかなかった。
　それが証拠に親は放蕩暮らしで滅多に家に帰って来ないし、後見人と称して弁護士が常駐している始末である。屋敷だって古くて広いばかりで、生活領域でない場所が一体どのような有様を呈しているのかというと考えるだにおそろしい。
　とても由緒ある家柄の姿ではないことだけは、確かである。
　ともあれ皇一族は皇神社の巫　　皇柚真人が今は、その神社の神主を務めているのだが、当の神主はというと、
「――で。何なんだ。なんで雁首揃えてお
れの家で夕餉の食卓囲んでるんだ、ああ？」
　前掛姿で――食堂のテーブルにサラダボウルを置いたところであった。
　食堂は、この古臭い木造平屋建ての皇邸にあって唯一弱冠洋風のたたずまいを見せている場所である。
　とはいえ床も壁も年期の入った板張りだし、テーブルも椅子も、年代物を通り越す勢いの代物。それもただ古いのか価値があるのか、いまいち判然としない。
　柚真人は芝居がかった溜め息で、肩を竦めて見せた。
　放蕩両親には当然家事の習慣はなく、通いの家政婦が簡単に下準備をしておいてくれるとはいえ、帰宅が六時、今が七時ちょっと過ぎだから、標準的な男子高校生と比較すれば、なかなか優秀な腕前といえよう。
　今日の献立は、その温野菜のサラダと――　　味御飯、焼魚、味噌汁、であるらしい。
　しかし、ふうむ、と飛鳥は唸って、テーブルを一瞥した。
「そういいながらしっかり用意してるんじゃない、四人前の夕食」
「どうもすみませんねえ。柚真人君」