【勾玉遊戯】inside
柚真人からして見ると、この従兄弟・飛鳥ときたら、やたら好んで腐れ縁を拵えているようなふしがあった。
どうやら好かれているようだから、悪い気はしない。それに飛鳥とは本当に長いつきあいだし、その時間が生んだ彼との間にある関係は、得ようと思って得られる代物ではないからいいだろうと、柚真人は思っている。
「冷たいのう、柚真人君は」
いかにも淋しそうな目を、飛鳥はしてみせる。
「ほらほら、受験生の試験監督。一緒にやろうよ」
「やっぱりそうくるんだよな」
今日のもっぱらの議題は、迫り来る入学試験に備えての、試験監督や受付、それに道案内などの係を募ることだった。級長自ら名乗りを上げてもいいが、そんな物好きはまずいない。大概はクラスにかえって募集される。
呆れたように、柚真人はぼやいた。
「……嫌だよ。お前、なんだってそう面倒な雑用が好きなんだ?」
「いいじゃんよう。面白そうだしさ。おれ、去年受験したとき、合格ったら絶対やるんだって心に決めてたんだもん。お前、思わなかった?」
これである。一緒にいると、とりあえず退屈だけはしないこと請け合いだ。いつも何かに巻き込まれることになる。
「物好きな……」
「なあ。やろうな?」
「断る」
柚真人は不機嫌な表情で吐き捨てた。
「おれはクラスから人員募る。だいたいだな。せっかく平日休みってのに、何が悲しくて学校なんか来なきゃならないんだよ」
すげなく言い返した柚真人は、鞄を取り上げて立ち上がった。
「帰るぞ」
「おおい、待てよ」
飛鳥も柚真人を追って立ち上がる。
真冬の鈍い陽射しが、ワックスの染み込んだ木タイルの床に長い影をつくっている。すでに、教室に残された人影は疎らだった。
そして二人が教室を出たときである。
会議室の前の廊下で所在無げにたたずんでいた一人の男子生徒が、不意に顔を上げた。
「ああ――皇! よかった、待ってたんだ」
男子生徒は――教室から出てきた柚真人の姿を認めて安堵したように表情を緩めたのだった。
その男子生徒は飛鳥の学級 柚真人の隣の学級の、三条祐一。
飛鳥にとっても、柚真人にとっても、面識がある、くらいの認識しかない生徒だ。
少しばかり神経質そうな顔立ちの少年は、だがしかし何かに縋るかのような切羽詰まった目をしており、飛鳥はそれを怪訝に思った。
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙