【勾玉遊戯】inside
ACT,2
「では、これで一月の定例会議を終わります」
「はああ―――――、終わった終わったっ。ったくいいかげんにしてほしいよなあ! 始業式だぜ、今日。しかも正月明けだってのによ」
議長の終了の宣言を聞いて、橘 飛鳥は大きく伸びをする。
欠伸が出た。
時計は、すでに午後三時を回っていた。本日は、一月八日――三学期初日である。
ぞろぞろと席を立つのは、月に一度の定例級長委員会を終えた、私立西陵高等学校は一年生の学級長達。
そのうちの一人――橘飛鳥は、長ったらしい前髪を鬱陶しげに掻き上げ、隣に立つ学年首席の幼馴染み――皇柚真人の背中をがしがし叩いた。
「いや、忙しいねえ。多忙だねえ、柚真人君」
西陵高校は校舎は都心をやや武蔵野方面へ離れた郊外にある。男女共学、平均的な学校より幾らか厳格な校風が売りの都内中堅の進学校である。
制服は、柔らかな鶯色と暖かい鼠色が基調だ。
開校四十年で敷地は広く、校舎も古い。生徒たちにもっともらしく語って聞かせるほどの歴史にも不自由していなかった。しかしその一方で、再新鋭の設備の拡充にも怠りがなく、生徒の評判、受験人気ともに上々である。
橘 飛鳥は、その西陵高校一年二組の、皇 柚真人は同じく一年三組の、級長を務めていた。
その顔と頭脳と教師受けで、入学と同時に面倒な地位に無理やりまつり上げられたのが柚真人。
対する橘飛鳥はというと、同級の生徒達の人気を強引にかっさらって級長の地位に登り詰めたと言うのが正しいだろう。
ふたりの付き合いは長い。
柚真人と飛鳥は母方を同じくする従兄弟同士だ。顔立ちは少し似ている程度で、性格は正反対。柚真人が些か裏表のある仮面人間であるなら、飛鳥はまったく裏というものがない直球野郎。
その関係は、物心ついた時からの友達とも幼馴染みとも呼べる間柄で、有り体に言えば腐れ縁という言葉がいちばんしっくりする。
ともあれ――正月早々といえども学校が始まってしまった以上、多少忙しいのは致し方ない。
「べつに……おれにつきあってくれ、と頼んだ覚えはないよ。お前、好きで多忙な生活してるんだろう?」
唇に皮肉げな笑みを刷きながら、柚真人はそう答えた。
「おれを巻き込まないでくれないか」
「そんな淋しいこと言うなよう」
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙