【勾玉遊戯】inside
「いいですか? 現実に起こり得ないことは起こらない。被疑者の罪を立証するためには全く必要のない事柄です。それは『事実』にはなりえません。現実かもしれませんけどね。ありえないことを言ってみても――法廷ではまったく無駄です。検察側にとっては」
「あ、なるほど」
「彼等が殺人の罪に問われることにかわりはないでしょう。それが、まず『事実』というわけです」
「柚真人お前、そんなことまでわかってたの?」
「おれを千里眼みたいにいわないでくれよ、飛鳥。別になんでもわかっているわけじゃない」
「そうはいってもねえ。ふうん」
分かったような分からないような判然としない様子で、飛鳥は肩を竦めた。
一方の優麻は何を思うのか、どこか愉しそうである。
「ところが現実は、私の役には立ってくれます」
「……はあ?」
「その『声』はね。私には、39条という切り札がありますから。精神錯乱、罪悪感、責任無能力、なんでもありの、『ジョーカー』です。そのうえ第一の殺人は公訴時効。第二の殺人は無罪さえ争える。それが難しくとも、量刑を争う余地は残るでしょう」
そして、優麻はコーヒーを飲み干しトレイに置くと、じゃあ、といって立ち上がった。
「頼むよ」
「あれ、どこいくの?」
「だからいま言ったじゃありませんか。接見ですよ。――そうでしょう? 柚真人さん」
そういわれると、初めて少年は少しだけ、悲しげな表情を浮かべた。
「……頼む。三条には、悪いことをしたと思ってる。祟りによって蔵の秘密を守ることもできた。三条には、その道を選ぶこともできたんだ。おれが、呪いの解除を強いた」
「あなたの判断、正しいと思いますよ。そのままにしておいたって、しかたない。真実は、明らかにされるべきです」
「だけど……三条の生活が……な」
「その点心配には及びません。私は新米の勤務弁護士ですから事務所と相談しないと詳しい事は決められませんが、努力します。検察側が不作為殺人無期懲役でこようが必ず勝ってみせますよ」
腕の良い弁護士を紹介することぐらいしか、柚真人が級友にしてやれることはなかった。
「あとは、私の仕事です」
「それって、汚くない? 弁護士さん」
「そうですね。でも、橘君。……柚真人君が、なぜ私にこの仕事を頼むのか、本当のところがわかりますか?」
飛鳥は、首を振った。
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙