【勾玉遊戯】inside
「そうでしょう。事実として、被害者はその土蔵に閉じこめられてしまっていたわけです。蔵に施錠した時点で怪我を負った子供が閉じ込められていたことを知らなかったとしても、後それに気づきながらそれを放置したとあっては、結果を予見しながらそれを回避しなかったということになります。結果を容認した。つまり、通常は――凍えて死んでしまうかもしれないが、放っておこう――そういう意思が認められますから。『未必の故意』ともいえるでしょう」
「三条の妹は怪我もしてたろ。ま、推定だけどじいさんが鍵掛けたとき、中に誰が居るか全く気がつかなかったってことは、気絶してたとか、意識が無かったとか考えるのが自然だもんな」
「そうであっても、家族は妹さんの声を、聞いています。生きて、そこにいるという認識、閉じ込め続けたらどうなるかという認識はあったでしょう。殺意は否定できない。幼い少女を七日も放置するということは疑いなく殺人の実行行為に相当しますから、それは問題になりません。怪我は外気温の急激な変化は、互いにあいまって子供の死期を早めただけにすぎないことになりますし」
「……だけどさ? 死体って普通臭わない? 死んでたら、臭いとか……」
「この季節ですから。死体は冷えるだけでしょう。それとわかるほど臭うことはありませんよ」
「へええ。じゃあ、――え? 三条の親父や祖父ちゃんは……」
「もちろん……殺人犯ということになります。殺人の罪責を問われるでしょう、間違いなく。栄養失調の子供を閉じ込め放置した親にだって不作為殺人が認められるんですよ。三条の家族には、それでも蔵を開けられない理由があった。
今閉じ込められている子供の命が危なくても、それと認識しながら放置した。
……三条君だけが、家族の未必の故意を知らなかった。それに……気づいていたんですよね、柚真人君は?」
「そういう専門的なことはわからないけどね」
柚真人はそういって、困ったようにわずかに首を傾げた。紙コップのコーヒーを口許に運ぶ。酸化したコーヒーの香りが飛鳥の鼻先をかすめた。
ファーストフードのコーヒーは、感動的なまでに不味いと、飛鳥は思う。
「でもさ。妹さんの声が何日経っても聞こえてたって三条いってたぞ。それ、てことは家族も聞いてるだろ。それでも殺意があったってことになるのかなあ?」
「細かいこと気にするなあ、飛鳥」
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙