【勾玉遊戯】inside
それでそれで、と意気込む飛鳥は、隣に座る柚侯の方へ身を乗り出した。
向かいに対する優麻はというと、コーヒーなど啜りながら、なるほどと頷いている。銀縁眼鏡の奥の瞳は、いつものことだが笑っているように見えた。
「何、なるほどって? だいたいねえ柚真人。君にはなんでそういうことがわかるのかね?」
ドリンクのストローの端をがしがし噛みながら、怪訝そうな顔で、優麻の言葉に首を傾げる飛鳥である。
「最初に話を伺った時点で、柚真人君は彼の妹さんの状態に気がついていたようですよ」
現実には、起こりうることしか起こらない。
優麻が聞いた柚真人の言葉は、文字通り、そのままの意味だったということになる。
「へえ? ――そいつは凄いね。一体お前のその目には何がみえてるんだ?」
「何といわれてもな。別にこの目玉が見てるわけじゃあないから」
「ま、そうだろうけど」
「まあ とにかく、こういうことでしょう? その妹さんは、おそらく何かの拍子で蔵の鍵を開けてしまい……」
「そんなもんで開くのか? 土蔵の錠前が……。南京錠でもあるまいし」
「どうでしょう?」
飛鳥と優麻が二人して柚真人を見たので、柚真人は小さく肩を竦めた。
「そこはあまり気にしてもしょうがないね。見るべきは事実。三条の妹が蔵の中に居たのは動かしようのない事実なんだ」
「じゃあ、そういうことにしましょう。その、妹さんは土蔵の中へ入って遊んでいて、階段から足を滑らせるか何か――とにかく怪我でもして、再び鍵が掛けられた時点では気を失っていて、まだ助かる状態だったんですよ。ところが蔵の鍵が開いていることに気が付いた者が、これはまずいと思って状況を確認せずに施錠してしまったんでしょう。鍵を掛けたのは、お祖父さんの方ですか?」
「ああ――たぶん。そんなとこだね」
「だから柚真人、お前なんでそれがわかるのよ?」
「気にするな」
「――いいですか。けれども幼い子供を真冬の最中蔵に置き去りにすれば、一晩で凍死する。そんなことはちょっと考えれば誰にでもわかります。怪我を負って危険な状態にあることを知らなかったとしても、七日も閉じ込めておくのは殺意に等しいといえるでしょう」
「……? どういうこと?」
飛鳥が訊く。
「つまり、家族が不作為をもって娘を殺した」
「殺人、てわけ?」
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙