【勾玉遊戯】inside
ACT,7
三条允太郎――それが三条祐一の祖父の名である。
三条祐允太郎は、まだ若かった頃に妻を亡くし、後妻を娶った。
後妻には、連れ子があった。それが、祐一の父親である。他にも、兄弟姉妹があったかもしれない。
だが、先妻にも子はあった。先妻の遺児は、後妻の連れ子より幼く、まだ年端もゆかない少女だった。
やがて、允太郎と後妻、その連れ子は、先妻の子が疎ましくなる。少女は後妻から母としての愛情を受けることがなかった。ことあるごとに少女は罵られ、過酷な労働を強いられ、暴力さえ受けた。
少女にとってそれは突然の転落だったに違いない。
母の死、父の豹変。
驚愕と恐怖。
そのような日々が何日も何日も続き、虐待は日増しにエスカレートしていった。
そして彼等は、ついにその幼女を折檻して、家の蔵に閉じ込めてしまったのだ。
翌日になって蔵の中を覗いてみると果たして少女はその中で生き絶えていた。
蔵の二階の、筵の上で、蹲るようになって死んでいた。
娘はまだ、十歳だった。
おそろしくなった家族は、そのまま蔵を封印してしまったのである。そして蔵の扉は『クラヒメ』なる祟りを以て封印された。
もともと、もう使われることなどなくなっていた古い蔵だった。そこで、家族は自分たちの罪を隠蔽するため、先妻の娘はどこぞへでも預けたことにでもしたのだろう。やがてそこへ嫁いだ妻も、それを知ることとなり、蔵の扉に触れる者に対する呪いをもってする禁忌がつくりあげられたのだ。
家族の秘密を守るための、祟りが。
☆
「お前――それじゃあ、三条は――」
飛鳥が瞠目して、柚真人を見た。
「騙されていたんだよ、自分の家族に。蔵に棲む祟りなんて最初からない。三条の家族は、自分たちの過去の罪をおそれて――娘を殺したんだ」
日曜日の午後。
優麻の勤務する弁護士事務所に程近い、ファーストフード店である。
昼過ぎとあって、店内はそれなりに混雑しており、ざわついていた。柚真人と飛鳥、それに優麻は、日当たりのよい窓際の席を陣取っている。
飛鳥と柚真人は、日曜出勤の優麻を事務所から呼び出して、事の顛末を語っているところだ。
とはいっても、ひとり強硬に事の説明を要求している飛鳥に、無理やり連れてこられた柚真人である といった方が、正しいのかもしれない。
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙