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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】inside

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――いま、そこから出してやるからな。まってろ、美佳。
 晴れた真冬の夜空が遠い。
 三条の家は庭も広く、古くからの地主の家らしいたたずまいをしていた。その庭の隅に、古びた蔵がある。歳月を感じさせるばかりで、みてくれは何の変哲もない白い漆喰の土蔵である。
 懐中電灯の鈍く黄色い光で照らすと、それは幼い頃の記憶にあるよりさらに、そこだけがくっきりと色褪せて見えた。
 『クラヒメ』様の棲む三条の蔵――。
 観音開きの扉には、錆びた土蔵錠がぶら下がっている。
 この蔵の中に、妹が居る。

       ☆

「――美佳!」
 三条祐一が扉に向かって、呼んだ。「美佳」 すると――。
 ――なあに、おにいちゃん。
 声が――返った。
 その声は確かに、頑丈な漆喰の扉の向こうから、聞こえた。いくらかくぐもってはいたが、それでも祐一にははっきりと聞き取ることができた。
 間違いなく、美佳の声なのだ。
 あの日――美佳がいなくなった日、祐一が聞いた声と、少しも変わらない。
 けれど。
 その、無邪気な声ときたら――背筋に何か冷たいものが触れていくような感覚を覚えて、三条は思わず掌を握りしめた。
 妹はもう十日近くもこの中に閉じ込められているはずである。なのに何でだろう――何でこんなにあどけない声が返るのだろう。
 三条には、怪我や病気に関する詳しい知識はなかったが、それでも、こんなに凍える冬の夜を、幼い子供が蔵の中で何度も越せるものではないのではないかと思う。
 食事だってまるきり採っていないはずなのだ。
 躯を暖めるものだってないはずなのだ。
 おかしい。
 この蔵には、何があるというのか。
「美佳、でておいで!」
 三条は諭した。
 ここ十日ばかり、両親たちの目を盗んで何度も繰り返したことだ。
 けれど、妹の答えは変わらなかった。
 ――なんで? いやだわ。美佳、ここから出たくないのよ、おにいちゃん。
「美佳……」
 恐ろしかった。
 その無邪気な声が今更ながらに恐ろしかった。本当に、この扉の向こうにいるのは妹の美佳なのだろうか。
 いや、しかし、美佳でないとしたら?
 鍵を握る手が震える。
「美佳!」
 ――うふふ。
「美佳っ!」
 ――いいの。美佳は、ここでいいの。うふふ。