【勾玉遊戯】inside
可愛らしい笑い声が、密やかに返る。そのあまりの無邪気さが、祐一の背筋にひやりと冷たい金属質の爪を立てる。
三条は、漆喰の扉に歩み寄った。
早く扉を開けることだ――皇柚真人はそう言った。
扉を開けば呪いは終わる。妹を救いたければ――。
「……鍵を開けるよ。いいね」
――うふふ。
――うふふ。
がちゃり。
重い音がして、鍵が開き、錠が外れた。
扉に手を掛け、力一杯それを引いた。
ぎぎ、と軋んで、その重い扉が開かれる。
懐中電灯を傾け、恐る恐る、蔵の中を覗き込む。
真っ暗だった。懐中電灯の光さえも、その闇に吸い込まれて弱々しい。
祐一は、自分の足元から蔵の奥へと照らしていった。
「美佳……? おい……?」
湿った空気と黴の匂い。
人の気配は無い。
懐中電灯の黄色い光が、板張りの床を這う。
視界の隅を、小さな白い物がかすめた。
照らす。
それは、足袋を履いた小さな足。
そう、足がみえた。
そして鮮やかな着物の裾。
朱色の晴れ着。
牡丹の紋様。
金糸と銀糸。
山吹色の帯。
首筋。
埃の積もった床に広がるさらさらの髪。
「……っ」
果たして、蔵の中には幼い少女が――否、三条美佳だったものが、横たわって居た。
正月の、晴れ着に身を包んだままだった。
動かない。
ぴくりとも動かない。
目を薄く閉じた儘。
息もしていない。
白い――真っ白い、顔。
――ああ。
蔵の二階へ続く階段のすぐそばに、仰向けになって――妹は――死んでいたのだ。
死んでいたのだ。
それに気がついて、足がすくんだ。
――どういうこと……だ?
「み……美佳!?」
蔵の中に足を踏み入れた三条が目にしたもの、それは変わり果てた自身の妹
の姿だった。
「美佳っ!?」
蔵の中には、他には誰もいなかった。 当然のことながら蔵の中に棲むという、『クラヒメ』様の姿も。何も。ただ、黴臭い湿った空気だけが、じっとり
とそこに在った。
ただの蔵だ。
ただの蔵だった。
だが、三条は動けなかった。
何かがおかしい。
何がおかしいのだろう、とぼんやり思った。そして、ややあって、その違和感に気づいた。
――そうだ。
おかしい。
――だって――。
ごとん、と少年の手から懐中電灯が落ちた。
美佳じゃない。
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙