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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】inside

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 可愛らしい笑い声が、密やかに返る。そのあまりの無邪気さが、祐一の背筋にひやりと冷たい金属質の爪を立てる。
 三条は、漆喰の扉に歩み寄った。
 早く扉を開けることだ――皇柚真人はそう言った。
 扉を開けば呪いは終わる。妹を救いたければ――。
「……鍵を開けるよ。いいね」


 ――うふふ。
 ――うふふ。


 がちゃり。
 重い音がして、鍵が開き、錠が外れた。
 扉に手を掛け、力一杯それを引いた。
 ぎぎ、と軋んで、その重い扉が開かれる。
 懐中電灯を傾け、恐る恐る、蔵の中を覗き込む。
 真っ暗だった。懐中電灯の光さえも、その闇に吸い込まれて弱々しい。
 祐一は、自分の足元から蔵の奥へと照らしていった。
「美佳……? おい……?」
 湿った空気と黴の匂い。
 人の気配は無い。
 懐中電灯の黄色い光が、板張りの床を這う。
 視界の隅を、小さな白い物がかすめた。
 照らす。
 それは、足袋を履いた小さな足。
 そう、足がみえた。
 そして鮮やかな着物の裾。
 朱色の晴れ着。
 牡丹の紋様。
 金糸と銀糸。
 山吹色の帯。
 首筋。
 埃の積もった床に広がるさらさらの髪。
「……っ」
 果たして、蔵の中には幼い少女が――否、三条美佳だったものが、横たわって居た。
 正月の、晴れ着に身を包んだままだった。
 動かない。
 ぴくりとも動かない。
 目を薄く閉じた儘。
 息もしていない。
 白い――真っ白い、顔。
 ――ああ。
 蔵の二階へ続く階段のすぐそばに、仰向けになって――妹は――死んでいたのだ。
 死んでいたのだ。
 それに気がついて、足がすくんだ。
 ――どういうこと……だ?
「み……美佳!?」
 蔵の中に足を踏み入れた三条が目にしたもの、それは変わり果てた自身の妹
の姿だった。


「美佳っ!?」


 蔵の中には、他には誰もいなかった。 当然のことながら蔵の中に棲むという、『クラヒメ』様の姿も。何も。ただ、黴臭い湿った空気だけが、じっとり
とそこに在った。
 ただの蔵だ。
 ただの蔵だった。
 だが、三条は動けなかった。
 何かがおかしい。
 何がおかしいのだろう、とぼんやり思った。そして、ややあって、その違和感に気づいた。
 ――そうだ。
 おかしい。
 ――だって――。
 ごとん、と少年の手から懐中電灯が落ちた。
 美佳じゃない。