【勾玉遊戯】inside
「ああ。どこにあるかわからないんだ。……どうしようかな?」
「三条のお祖父さんはそういう大切な物をどこに?」
「さあ……」
「まあ、箪笥の隅とか、仏壇の引き出しとか……そういうとこかな。探してみればいい。ただ……――三条」
少年の声色が、微かに変わる。
「蔵は封印されたままでも存在する。蔵の扉を開けないことも、選択できる。それでもいいよな? 過去への封印は、それなりの故あって施されたもの。意味のない封印など、存在しない。それでも妹を救いたいなら、蔵を開けることだけど」
「……そうする。ありがとう皇。その……変なこと相談して、悪かったな」
違う――その時飛鳥は気づいた。
柚真人は、『助ける』とはいっていない。『救う』と、彼はいったのだ。それは柚真人が生きた人間に向ける言葉ではない。
そう、飛鳥が柚真人に感じる冷たさは――柚真人が見ているのが、柚真人が動くのが、現在の生命のためではないからだ。なぜなら彼は――誰あろう皇神社の神主。
一族の巫。
死者の導き手――。
黄泉と現世の境に立つ者。
――じゃあ――柚真人は――。
待て、と飛鳥は言おうとした。
しかし。
身を竦ませる一瞥が、それを阻んだ。干渉を許さない――それは柚真人の意思表示だ。だから、飛鳥はすんでのところで言葉を飲み下だすしかなかった。
これは――柚真人の『仕事』だ。
三条を残して教室を出た後、飛鳥は柚真人の肩をつかんだ。
「おい、柚真人」
「いいんだよ。こうするのが」
肩越しに振り向いた柚真人は言った。
「いいって――」
立ち止まると、柚真人はさっさと廊下を歩いていってしまう。飛鳥は早足になって、再び柚真人を追いかけた。
「でもよ。お前――」
「別に……後先考えてないわけじゃあない。最善の方法を示唆しただけだ」
ため息混じりに柚真人はいい、くるりと身を翻して飛鳥を――見た。
「三条家の呪いは、どのみちもう長くはもたない。あいつの手で早く壊すのがいいんだ」
「……柚真人……」
「おれの言いたいことの意味が分かるなら、口は出すな」
「……。はあいはい。御当主様」
この豹変ぶりときたらない。
今のこの柚真人の表情を、三条が見たら一体何と言うことだろう。こういうときの皇柚真人は、恐ろしい表情をするのだ。感情をすっかり消し去り、逆らうなと云う。端整な顔の造作さえも武器になる。
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙