【勾玉遊戯】inside
ACT,4
心の底から憂鬱になれるほどに良く晴れた朝だ――。
駅から学校までの、坂道を歩きながら、三条祐一はそう思った。
青々とした冬晴れの空が、忌々しいほどに眩しい。
妹があの蔵に閉じ込められてから九日が経ったのだ。
――お前か、鍵を持ち出したのは?
祖父が、蒼白な形相でそう言ったのは、一月一日の夜。
――お前が蔵の錠を開けたのか?
その時、父も母も、文字通り幽霊でもみたかのような顔で祐一を凝視していた。それは、子供を叱責する親のまなざしではなかったように思う。祐一の知らないよそよそしさが、そこにはあった。
家の庭の隅にあるその蔵が、開かずの蔵であることは知っていた。
――おれ……鍵がどこにあるかだって知らないんだよ? どうやってあけるんだよ。大体開くのかよ、あんな古い錠?
今思えば矛盾したことを言った。妹が、美佳があの蔵の中にいるということは、どうやってか蔵の扉が開けられたということなのだから。
――鍵、あるのかよ? だったらいますぐ、開けりゃいいじゃん。美佳、出してやれよ。
だが祖父は――強張った表情で、ぶるぶると首を振った。できないというのだ。
――父さん?
拳が白くなるほど両の手を握り締めて父はうつむいた儘だった。
――母さん!
父とも祖父とも、そして祐一とも、母は目を合わせようとしなかった。
――どこなんだよ、鍵!?
誰も、何も応えてくれなかった。
――駄目よ、祐一。
視線を遠く彷徨わせたまま、母が言った。
――蔵は、あけられないの。『クラヒメ』様が、お怒りになるわ。
――そんな馬鹿な話があるかよっ。誰かが開けたから美佳があんなとこに入っちまったんだろ。美佳……美佳をこのまま放っておくのか! 何……何考えてるんだよ!?
――駄目なのよ……。
――美佳が何したっていうんだよ! 父さん、母さん、それともじいちゃん!? 誰だよ、誰かがやったんだろ!?
けれどそれ以上は、言ったところで全くの無駄でしかなかったのだった。
両親も祖父も闇雲に『クラヒメ』とかいう伝承に怯えていて、話にならない。
ばかばかしい。
錠が開いていたなら、誰かが開けたに決まっている。そして誰かが閉めた。
妹を中に残したまま、再び錠をした。
祖父か、父か、母か。
三人のうちの誰かしか、しようがないではないか。
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙