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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】inside

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ACT,4





 心の底から憂鬱になれるほどに良く晴れた朝だ――。
 駅から学校までの、坂道を歩きながら、三条祐一はそう思った。
 青々とした冬晴れの空が、忌々しいほどに眩しい。
 妹があの蔵に閉じ込められてから九日が経ったのだ。


 ――お前か、鍵を持ち出したのは?
 祖父が、蒼白な形相でそう言ったのは、一月一日の夜。
 ――お前が蔵の錠を開けたのか?
 その時、父も母も、文字通り幽霊でもみたかのような顔で祐一を凝視していた。それは、子供を叱責する親のまなざしではなかったように思う。祐一の知らないよそよそしさが、そこにはあった。
 家の庭の隅にあるその蔵が、開かずの蔵であることは知っていた。
 ――おれ……鍵がどこにあるかだって知らないんだよ? どうやってあけるんだよ。大体開くのかよ、あんな古い錠?
 今思えば矛盾したことを言った。妹が、美佳があの蔵の中にいるということは、どうやってか蔵の扉が開けられたということなのだから。
 ――鍵、あるのかよ? だったらいますぐ、開けりゃいいじゃん。美佳、出してやれよ。
 だが祖父は――強張った表情で、ぶるぶると首を振った。できないというのだ。
 ――父さん?
 拳が白くなるほど両の手を握り締めて父はうつむいた儘だった。
 ――母さん!
 父とも祖父とも、そして祐一とも、母は目を合わせようとしなかった。
 ――どこなんだよ、鍵!?
 誰も、何も応えてくれなかった。
 ――駄目よ、祐一。
 視線を遠く彷徨わせたまま、母が言った。
 ――蔵は、あけられないの。『クラヒメ』様が、お怒りになるわ。
 ――そんな馬鹿な話があるかよっ。誰かが開けたから美佳があんなとこに入っちまったんだろ。美佳……美佳をこのまま放っておくのか! 何……何考えてるんだよ!?
 ――駄目なのよ……。
 ――美佳が何したっていうんだよ! 父さん、母さん、それともじいちゃん!? 誰だよ、誰かがやったんだろ!? 
 けれどそれ以上は、言ったところで全くの無駄でしかなかったのだった。
 両親も祖父も闇雲に『クラヒメ』とかいう伝承に怯えていて、話にならない。
ばかばかしい。
 錠が開いていたなら、誰かが開けたに決まっている。そして誰かが閉めた。
妹を中に残したまま、再び錠をした。
 祖父か、父か、母か。
 三人のうちの誰かしか、しようがないではないか。