【勾玉遊戯】inside
すっ――と柚真人が片手を上げて、優麻の言葉の先を制した。
「優麻の目に映るのが、現実。おれの目にうつるのは、真実。ただ、それだけの違い」
この少年は、――皇神社の少年神主は、その、見えないものを見る瞳で、何を『霊視た』と云うのだろう。
「ですが……」
「このことは近いうちにおって連絡するよ。たぶん……仕事を増やすと思う、優麻」
柚真人は、優麻の背中にそんな言葉を投げてよこした。
少年がその不可思議なものを見るという瞳に、一体何をうつし、いかなる真実を見たというのか 優麻にはわからなかった。否、それが物理的に瞳に像を結ぶ物なのか、それとも彼の心が見るのか、それさえ判然としているわけではない。
それはいつものことだ。
けれど、彼の言いたいことは、わかった。
玄関を出て、皇家の庭を横切り、神社の境内を歩く。先日降った雪が、まだ溶けきれず氷の山になって固まっていた。夜の中に浮き上がっている白い色が、いっそう寒さを感じさせる。
そう、年明け二度目の雪だ。……この間降ったのは、たしか一月……二日か三日か。
鳥居をくぐると、道路に出た。
――雪の日だってあった。
蔵に棲むという、家の守り神の、祟りに怯えて幼い娘を放置する。
そんなことがあるのだろうか。
生贄でもあるまいに、家の娘を
犠牲にしてまで守らなくてはならない……何がある? そんな倫理がこの御時世に通用するのか?
かの秀麗な少年神主の言うことが、本当ならば。
確かに、こんな寒さでは、小さな子供は凍えてしまう。
一晩ともちはしないであろう。
それは、現実。
だが。
それでは真実と現実にいかなる食い違いがあるというのか。
――食い違い――錯誤か?
優麻は、知らず微笑んでいる。
錯誤。
現実と真実の錯誤。
それは――いや、それこそが。
真実であると。
多分そうなのだろうと、優麻は思った。
作品名:【勾玉遊戯】inside 作家名:さかきち@万恒河沙