小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

崩壊世界ノ黙示録

INDEX|3ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

「俺は王国機関の人間じゃない。機関長さんに言われて雇われたら、ここに入れっていわれてバッジを渡されただけだよ。了解?」
 リコスは食い下がらなかった。あくまでも自分は本物だと言いたいらしい。本当に本物だったら滅茶苦茶失礼だな、とアシエは胸中で呟きつつも、やはり構えた結晶器は外さなかった。本物であれば謝罪で済むが、偽者だった時に返しが付かなくなるのは御免だ。

……と、

「リコスゥゥゥゥゥッ!出て来いィィィィッ!」
 悪魔の如き叫びが、今度はかなり近くで轟いた。同時にガシャン、という何かの破砕音が鳴り響く。――それも、ホバーバイクを停めていた方角から。
まさか、と最初は思ったのだが、どうもあの音には聞き覚えがあった。戦闘の最中で搭乗物が粉砕された時、運悪く高所から機械を転落させた時。とにかく、福音でないことは確かだ。
 その聞き覚えのある音に、サッと体の血が引いていくのを感じる。バイクを破壊されたことによるショックも少なからずだが、それよりも『単独で』それを破壊出来るような化け物が直ぐ近くまで来ている、という事実に。
 どうやらそれだけは、目の前の青年も同じ様で、
「……マズイね。非常にマズイ。どれくらいかっていうと、もうそれはヤバイくらいに。あんな化け物が居る限り、世界は平和にならないだろう」
 顔はすっかり青ざめ、声には焦りの色がハッきりと滲んでいる。最早先ほどまで見えていた余裕の色は微かにさえ見えない。
 それはそうだろう、とアシエは心の中で銘打った。何せ呼ばれている名前は、この青年に他ならないのだから。
「一体何したのよ、っていうかあの化け物は何なの?さっきも蟷螂愚者を思い切り放り投げてくるし……あれはどうみても魔王よ」
 それが正直な感想だった。3メートルを優に超える巨体を投げ飛ばし、100キロオーバーのバイクを丸ごと1台粉砕する。身体の中に結晶器を埋め込んでいる人間ならば別なのだろうが、そんなことが出来るのならばとうの昔に実装されているに違いない。

 というのも、新人類とて所詮は生き物だ。食べなければ死んでしまうし、病気にだってなる。ただ単に旧人類と違っている点は、空気中の結晶放射から身を護れるというだけの話なのだ。
 しかしそれにもやはり限度というものがある。結晶器は、大気中の結晶放射を凝固させて使うもの。ということは、肉体に埋め込めば肉体の中にそれを生成することとなる。確かに一時的な超膂力は得られるかもしれないが、再び空気中へと溶け込めない結晶放射は身体に『毒』として残り続け、いずれは死に至ってしまうことだろう。
「いやね、ちょっと肩口からのタックルをかましちゃってさ。そりゃもう、豪快に」
「何、じゃあ向こうは手負いでも『当たって砕けろ』であなたを殺しにきてるわけ?信じられないわね」
「……寧ろ当たって砕けたのはこっちの方だったんだけどね」
 体のあちこちを労わるように撫で、リコスは大きく息を吐いた。よくみると服の半分だけに泥砂が付着している。それが全てを物語っているようで。
「まさか!タックルかましたあなたの方が吹飛ばされるなんてある訳…………あるの?」
 アシエとしては、到底信じられない事ではあった。だが、あんな怪力を発揮できる人物だ。筋肉が鋼鉄と化していても不思議ではあるまい。
現に、質問を受けたリコスはただ首を横に振り、忌々しげに息を吐き出すばかりだったのだから。
 だとすれば、見つかってしまえばかなり面倒なことになりかねない、というか面倒は避けられないだろう。本当ならばさっさと帰路に着きたいところなのだが、バイクを駐車している方角にはその『面倒』が待っている。――破壊されていなければ、の話だが。
 仕方なくアシエはリコスに突きつけていた結晶器を下ろすと、袖の中へと滑り込ませて収納した。
「あなた、此処に来てるってことは移動手段はあるのよね?乗せていってくれたら信用してやらないことも無いわ。『こんな常識知らず』でも」
「真偽も確かめないで結晶器を突きつける君も『常識知らず』なんじゃないかな」
「あはは、蜂の巣って知ってる?」
 アシエはすぐさま結晶器を手中に滑り込ませた。
「ごめんなさい、すぐ案内します」
 リコスは即答した。


―☆―


「……で、改めて聞くけどあなた誰なの?」
アシエはキャンピングカーの中にあった、スティック状の携帯食料を口いっぱいに頬張りながら喋った。対して運転席のリコスは何も口にせず、黙々と運転をこなしている。
 あれから数十分後、2人はリコスが近場に停車しておいたというキャンピングカーに搭乗し、既に日の落ちた夜空の下を走っていた。
 幸運なことに『面倒』には最後まで見つからずに済み、追ってくる気配も無い。キャンピングカーの中は色々な設備や食料があり、数日間の帰路には充分すぎる休息を取れそうだった。
 見知らぬ男の車に乗ったからといって、しかしアシエはリコスという青年の事を完全には信用した訳では無い。妙な行動を取ったときの為、常時精神を尖らせているし、一言一句に含まれる微かな澱も見逃さないよう耳を立てている。有事には袖口からはすぐさま結晶器が飛び出すし、いざとなれば得意の格闘術を叩き込んでやるつもりだったが――今のところ、彼がこちらに妙な事をしようとする素振りは全く無かった。
「今は君と同じ機関員だけど?本業の事を言うならそうだな、俗に言う……『何でも屋』ってやつかな。仕事は合法から非合法までさ。とは言っても、この世界にろくな法律なんてものは無いけど」
「ふ〜ん」
 残っていた半分のスティックを一気に口内に放り込み、咀嚼する。それから隣に置いてあったアルミコップから、生ぬるい水を喉へと注ぎ込む。
 喉に痞えていた細かい粕が流し込まれたのを、咳払い1つで確認した。
「私の小隊所属って書いてあったけど、失礼ながら帰ったら確認させてもらうね」
 アシエはあくまで優しげに物を言ったが、言葉は罠だった。『確認する』ということを伝えることで、相手の焦りを誘い出そうという魂胆だ。もしもリコスが機関員を装っているだけならば、その『確認』という単語を聞けば微弱ながらでも焦りを見せるものなのだが。
「それがいい。俺も疑いを早く晴らして欲しいし、何より初対面の怪しい奴は信用しないことが大切だ。ま、初対面の俺が言うのもなんだけどさ」
 どうやらこれには引っ掛からなかったらしい。
「ん、じゃあ機関長に今から確認とってみる」
 次に少女はさらっと言い、耳掛けの通信機に手を伸ばす。勿論、こちらからでは機関長と連絡を繋げるように出来ていない。これも相手の動揺を誘う、一種の罠だった。

 もしもそれが都合の悪い事ならば、こっちのハッタリを本当だと思い込み、どうにかして止めに掛かってくる筈。そう踏んでいたのだが。
「どうぞどうぞ」
 リコスは尚も運転に集中を置きながら、軽く気の無い返事を返すだけだった。その声に全く焦りといった同様の色は滲んでおらず、これ以上いくら罠を掛けてみた所で結果は見えているだろう。アシエはそれ以上の質問を無しとし、目的地の≪第9区イェソド≫まではとりあえず大人しくしておくことにする。
作品名:崩壊世界ノ黙示録 作家名:むぎこ