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崩壊世界ノ黙示録

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「五月蝿いわね!黙って!私にだって、彼氏の1人や2人、作ろうと思えば何時でも……思えば……多分……私、どこが駄目なんだろう」
「おや、珍しく女の子らしい可愛い声で喋れたじゃないか。その声で、男を落とす練習でもしとけば?」
「あ、あなたね……!」
 怒声を上げようと腹部に力を込めてから、アシエは周囲の隊員から向けられるやけに悪戯っぽい視線に気が付く。それにはリコスも気づいている筈なのに、彼は何時までもにこやかに笑っているだけだった。
――だが反面安心出来る事も、その視線の先に存在していた。誰1人として悲しい顔をしておらず、見た目にも怪我を負った痕跡は無い。全員が全員、無事なようだった。
 成功したのだ。伸るか反るかの博打作戦が、願ったとおりに。犠牲の元に成り立つ成功でもなく、誰1人として欠けずに生き残れたのだ。
「アシエ小隊長」
 悪戯な視線を送っていた内の1人が、未だ含み笑いが混じった声で少女の名を呼ぶ。
「貴方の御陰で生き残る事が出来た。感謝しようにも仕切れない……次に何かあった時は、必ず私たちの小隊も救援に向かいましょう。出来る限り尽力させてもらいたい」
 それは、先刻指揮下に入った『41号小隊』の小隊長だった。さっきまでアシエを蔑むようだった瞳は今、対称的に尊びに溢れていた。まるで自らの憧れを託すように、そこに自らの目標があるかのように。
 アシエはふと遠方の景色に目を見やった。相変わらず其処には巨大な竜が居て、我が物顔で暴れまわっている。時折見える爆発と金色の明滅は、機関からの砲撃だろうか。空気には相変わらず火の粉が混じっていて、深呼吸しようにも灰が焦げそうになる。
「行くのかな、小隊長」
 その視線に、ようやくリコスが離れる。彼と向かう視線の先を交差させ、アシエは頷いた。
「ええ、このまま第8区画が破壊されるのを黙って見ている訳には行かないわ」
 砲撃を受けようとも、竜はビクともしていない。ただ変わらず、破壊行動を続けているだけだ。兵器による砲撃すらも受け付けないということは恐らく、あの愚者が纏っている鱗の装甲はグラゴネイルよりも数十倍の強度を誇っている筈だった。
 そんな相手に、数で向かって勝てるとは到底思えない。だが、此処は大勢の人が希望を待ち望み、作り上げた団結と希望の街だ。例え1つの建物だとしても、そこには必ず紆余曲折の事情がある。それぞれの思いがある。だからこそ、決して易々と壊されていい物の筈が無い。
「小隊長、俺も行く。独りは駄目だし、何にせよ独力で勝てる相手じゃ無い事だけは確かだろうし」
「わ、私たちも……!」
 リコスに続いて立候補しようとした隊員たちを、だがアシエは制止させた。
「駄目。私には皆の命を預かる責任がある。任務がある。何よりも大事なそれを、こんな所で失うわけには行かないの。リコスには責任があるから、付き合ってもらうだけよ」
「し、しかし……それでは……」
 隊員たちは渋る表情を崩そうとはしなかったが、
「――大丈夫だ。彼女は俺が守るから。……絶対にね」
 凛と響いたリコスの声に、やがて隊員たちは絆されていった。それでも何処か悔しい表情を浮かべながらも、熱風が吹き荒れる中で敬礼する彼らを見て、アシエは胸が熱くなるのを感じた。
――この命を守らねばならない。例えそれが自己犠牲の上に成り立つ命になろうとも。
「……行くわよ、リコス。さっさとこの戦いを終わらせて、休暇でも楽しみましょう」
「おや、君までサボり癖があるとは。いやはや、休暇返上で街の再建くらい手伝いなよ」
「君までって……他に誰か……まぁいいわ。詮索は後にして、行きましょう」
「ああ、そうしよう。ほら皆がさ、君に熱っぽい視線を送ってるからさ、何か俺としても早くここを去りたいんだよね。まだ格好が付いてる内にさ」
「あははっ。さっきあんな大口叩くからよ。……でも、ありがとう」
「え?最後何て言った?聞こえなかったんだけど」
「聞こえなかったんならそれでいいわ。さぁて、久しぶりに暴れますか!」

















第4章/人類、決戦。……

6


「このぉっ!」
 .5ミリ口径のオートマチック・ピストルが火を吹く。結晶放射により作られたその弾丸は美しいほど真っ直ぐな軌道を描いて目標へ激突、火花を散らせて宙へ飛散した。
 と、代わる目標は無数に枝分かれした起伏触手のような尻尾の1本で、アシエを叩きのめそうと試みる。積もりに積もった瓦礫の山を粉砕しながら進んでくるその丸太の如く尻尾は、見た目にも堅い鱗に覆われており、射撃攻撃によって破壊することは不可能だとも思えた。
「く……そ!」
 もし喰らえば、ひとたまりも無いだろう――咄嗟にアシエは右足で地を蹴り、宙を回転しながら後方へと降り立つ。巨大な1本が生み出す熱風に当てられる不快感に晒されながらも、近くにあった岩場へと身を潜める。
 この混沌的状況下の中、アシエは味方の行動を把握する余裕を完全に失っていた。共に討伐へ乗り出した筈のリコスでさえも、最早その姿は見当たらない。視界に映るのは唯巨大な竜の足元と、蠢く尻尾、揺らめく焔の光だけだった。
(どれだけ大きいのよ、この愚者……こんなのが一体全体何処に眠ってたの!?)
 完膚なきまでに破壊された嘗ての『中央通』。そこに君臨する竜の巨躯は、近づくと圧巻である。見上げるも視界に収まりきらないその巨躯は恐らく、100メートル以上だと思われた。
 2本の後ろ足と2本の前足――計4本に挟まれる股下。其処が一番の安全地帯であると、リコスもアシエも最初は信じて疑わなかった。何せ巨大な分、動きは鈍い筈なのだ。
――だが、現実はそうでは無かった。安全だと思われた股下は、寧ろ竜の有利な攻撃範囲に含まれていたのだから。
「また……!」
 振り切った先ほどの尻尾がもう1度同じ軌道をなぞり、目の前を通過していく。瓦礫に隠れている分熱風の余波は防げたが、衝撃で飛んでくる瓦礫の破片が頭部に降り注ぎ、僅かながらにも痛みを齎す。
 そう、この股下には『尻尾』という器官が複数存在しているのだ。1つ1つが軟体生物のように撓るそれらは、まるで自らにも目が付いているかのごとく策敵・攻撃を行ってくる。動きこそ鈍いものの、巨大ゆえに齎す攻撃範囲は脅威以外の何ものでも無い。
 今のように瓦礫に隠れながら射撃を行おうにも、竜は頭殻から足先までを堅固な鱗で覆いきっている。グラゴネイルには通じた.5ミリ口径の結晶器でさえも、この鱗を前にすれば力の無い赤子同然に散る運命だ。
 他の機関員達は戦闘の合間、稀に見かけることはあってもその殆どは既に屍と化した者達。あのリコスでさえも戦闘に余裕が無くなり、結局は分断されるまでに至ってしまった。数でかかっても無力同然だというのに、1人1人で分断されてしまえば最早戦う意義など無いに等しい。
 だが、だからといって逃げる気などアシエには端から無かった。結局自分には尻尾の注意しか向いていない故、竜自体は未だに火炎放射を吐き続けている。容赦なく人を消し炭にし、建物を焼き尽くすその攻撃は、足元までを熱に晒していた。ということはつまり、周辺で戦っていた者達は既に全滅している筈だろう。
「パルト……応答して」
作品名:崩壊世界ノ黙示録 作家名:むぎこ