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崩壊世界ノ黙示録

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「あー……確かに。これじゃあ恨み骨髄に徹する奴等が反乱起こしても問題ないな。長い年月を機関長として行動して、遂には焼きが回ったか?そろそろエニスさんも歳だからなー、無理ない無理ない。俺も腰痛いし、歳には勝てんもん。あー、いてて……。あ、言い忘れてたんだけどそういえばさぁ、さっきエニスがお前に召喚令出してたぞ」
「ちょ……それ、普通言い忘れる!?もう、相変わらず抜けてるわね!さっさと行かないとどやされるのは私じゃない!」
 ティラの一言を聞き、アシエは思わず椅子から飛び上がって怒声を散らした。――と、言い終わるや否やその声の大きさに自分でも驚き、思わず口を手の平で塞ぐ。明らかに看護士が聞きつけて来てもおかしくは無い程度だっただろう。

 アシエは咳払い1つ、もう1度、今度は声量を殺した小さな声で、
「じゃあ、行ってくるから。リコスの面倒よろしく」
 とだけ言い残し、静かに。だが足早に、リコスの病室を後にした。
 部屋の隅には唯1匹、先程見たあの蚊が羽音を響かせ、飛び回っていた。


 ★

「……で、何用ですか?また実地任務でも請け負ってもらうおうと?」

――機関長エニスの部屋は、普段よりも幾分と薄暗い雰囲気が漂っていた。大きな筈の天窓は布切れによってその半分以上の面積が覆われており、暖かな光が目一杯に降り注ぐはずの鉄床は歩くたびに妙な音を立てた。
 部屋には書類の山がこれでもかという程に積みあがっており、彼――エニスの不精ぶりを見事に表している。

「いや、その件ではない」
 エニスはそんな薄暗い部屋の中央に置かれた長机を挟んでアシエと向かい合わせに立ち、静かだが迫力のある声で言った。機関長を示す青い軍服の胸に飾られた白銀の名誉紋章が、僅かに射す太陽の光を反射し、その存在をより主張する。その光はまるで威光のようにも思えて、
「では何ですか?リコスの件ですか?……あの件に関しては私の管理不行き届きで片付いたはずです。今更掘り返しても、もう何も粗はありません」
 アシエは投げやりに、あまつさえ苛立った早口でエニスに詰問した。姿勢はあくまで律儀を保ち、直立姿勢に手は後ろ組みしていたが。
「……確かにリコス・ヴェイユは関係している。だが、君の管理責任を問い直そうと言う訳ではない。これはそう、あくまで彼に関しての『諸注意』だとでも思ってくれれば幸いだ。まぁ、この報告を君がどのように受け取るかは自由だがね」
「と、いいますと……彼に、目新しい何かが見つかった、ということですか」
「まぁそうなるな。なら、いきなりだが1つ目の質問だ。……彼は一体、どのような人物だ?」
「はぁ、リコス・ヴェイユは……皮肉屋で面倒臭がりで、この世自体を恨み骨髄に徹しているような、捻くれた性格の持ち主です。……けど、他人を思いやる気持ちも微かにはあるかと」
「成る程、君にしては彼を気に入っているようだ。……ならば2目の質問だ。彼は、『何に狙われて』ああなった?」

 刹那、アシエは背筋が凍るような感覚に襲われた。部屋の中に流れていたじめりとした空気が、一気に冷え切ったような感覚だった。
 言っていないのだ。アシエは、リコスが自分を庇ってああなった事を、エニスへの報告書に記載しなかった。あくまで記載したのは、『逃亡者の追跡中、銃撃戦となった際の流れ弾に直撃』という事だけだ。
 だが、彼は今『何に狙われた』、という質問を投げた。果たしてあの報告書の中から、そんな事実がどうして分かろうか。どんな思索を巡らせようと、そんな結論に至れるはずが無い。
――知っているのだ。エニスは、恐らくリコスが何に狙われているかを知っている。そして、その件に関して自分を此処に呼んだ――アシエは瞬間的に悟った。自分が、何故この場に呼ばれたのか、ということを。

「機関長……まさかあなた、あいつ等の正体を知っているんですか?」
 もう隠す必要性は見当たらない。アシエは、思わず聞き返した。リコスを付け狙った彼ら――或いは彼女らだったかもしれないが――は、一体何者だったのか。今まで幾度と無く戦闘を繰り返してきたにも関わらず、全く手も足も出なかった敵の事を。
「彼らは……≪黄金の夜明け団≫と呼ばれる、『人間』だ。勿論、私達も人間だが、だとすると彼ら彼女らは……『原住民』とでも言うべきか。つまり黄金の夜明け団は、皆旧人類による組織改造を受け継いでいる生物ではないということだ」
「組織改造を受けていない……!?それなら、愚者と同じく『進化の過程』で結晶放射を体内から除去、或いは遮断する仕組みを持ったんですか!?」
「そう、黄金の夜明け団は人の形をしているが、実際は既に人ではない。言葉も話す、食物も同じ……だが、奴らは思考・身体能力に於いてはあり得ない程の回転力を持っている。君も相当にやり手のようだが、夜明け団とは造りが違うからな。歯が立たなくても仕方なかった、というところだろう」

 だがアシエはエニスの説明を受けるうち、ある疑問が自分の中で膨張していくのを感じていた。組織改造を受けず、そしてあらゆる面において自分達新人類よりも上を行く≪黄金の夜明け団≫。
 確かに、自分は歯が立たなかった――アシエは如実にそう感じている。けれども、リコスはどうだろうか。彼は、あの戦闘で1対1の状況ならばきっと負けは取っていなかったであろう強さで、相手を圧倒していたではないか。
 『人であれど人でない』――姿形は同じであれど、構造が違う……?


「まさか……リコスも、≪黄金の夜明け団≫だっていうんですか?」

 思索を巡らせる内、思い至ったのがその考えだった。『リコス・ヴェイユ』という人間もまた、超人的な能力を持つという夜明け団の一員――その可能性も、十分にある筈だ。
 だが、エニスはその考えを『あくまで否定するかのような』息を吐くと、乱雑に積んであった足もとの資料の山から適当な1枚を引っ張り出し、それをアシエへと向ける。
「……診断書、ですか」
 薄暗い部屋の所為ではっきりとは見えないが、向けられた紙面には恐らくそう書かれていた。積まれっぱなしだった資料にしてはまだ紙に皺がいっておらず、それが比較的新しいということを証明している。
「そう、診断書だ。彼、リコスのね。……これを見てみると確かに彼の腹部には、結晶器による弾痕がはっきりと確認されていたようだ。内蔵を貫通、背中まで一気に刺し貫いた結晶器の弾丸。だが彼は、何の後遺症も無くそれを僅か1週間ほどで治癒させている。……可笑しいと思わないかね?」
「……結晶器による弾丸は、要するに結晶放射を凝縮、固形化して発射される、謂わば毒の塊……もしもそれが人体を貫通すれば、大量の結晶放射が傷跡に蓄積、そこから肉体を腐食させていきます。例え私達のように組織改造を施されているとは言っても、限度がある。ましてや結晶放射がそのままの濃度で血液中に流動しようものなら、高い毒性と即効性で腐食が完全に進む前に死に至る筈です」
作品名:崩壊世界ノ黙示録 作家名:むぎこ