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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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焼け野原にはなにが咲く

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観覧車は緩慢に、けれどもぐんぐんと確実に高度をあげ、てっぺんについた。ちょっとだけ揺れて、ユリアが僕に軽くしがみつく。それから今度はゆったりとゴンドラが下降していく。この巨大な乗りものは、じわじわ、僕を、いやユリアをも蝕んでいくような周回をしている。日々めくられるカレンダー、身体に染みついた記憶、同じくまわる時計。なんとなく、空虚さに苛まれてしまう。
すべてが燃え尽きてしまった焼け跡に一人で立っていれば当然孤独になるだろう。いくら待っても植物も萌えなければ人も来ないかもしれない。
だから愛着を捨ててしまわなければならないのだ。自分の中にある未練を殺してしまうべきだ。たとえ諦めたあとでそこになにかが芽生える可能性があっても。
「もうすぐ一周するよ」
「早かったね」
「そうかな」
相変わらず室内は静かだった。三年を費やした距離感が肌に馴染んでいる。
「かすみ」
「かすみ?」
顔を起こさないまま、ユリアがこぼした。僕は首を傾いで問い返す。
「私の本名がね。花の純って書いて花純ね。名は体を表さないこともあるんだよって話?」
「なんで今ごろ」
「今日だからに決まってるじゃん。誠実さんは最初から嘘の名前じゃなかったからなんか、言っときたいかなみたいなね」
返事を求めていないような口ぶりに、僕はただうなずいた。ユリア──花純はバッグから携帯を出していじりだす。覗き込んでも制止されなかったので、そのまま花純の手元と画面に視線をやる。待受は夜の新宿駅だった。三年前の春、ユリアが佇んでいた場所だ。
花純はアドレス帳を呼び出し、「誠実さん」のところまでキーを持って行く。僕を上目づかいにさらってにこりとしてから、「誠実さん」を削除した。リボンだのなんだのと立体的な装飾が施された爪でよくも操作できるものだと感心する。それ以上にうまくコントロールできなければいいとも思った。
「誠実さんも、消して」
今日が最後の日で、今日は僕がユリアに自由にされる日だ。
携帯を開き、同じようにユリアのデータをたどる。もしものことを考えて疎遠になっている大学時代の男友達の名前で登録しておいた。花純が僕の胸で笑った気配があった。こういう秘密めいたことも、「セイジツ」な僕にはぐっとくるものだった。なんて幼かったんだろうと、今になって後ろめたい。