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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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焼け野原にはなにが咲く

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削除しますか、と感情のない機械が尋ねてくる。あと一押しで、つながりがなくなる。金も払わなくて済む。痛いと感じたのは唇を噛みしめていたからなんだろう。世間体を愛する僕がぽんと背中を押してしまう。
「消したよ」
「じゃ、ユリアはもう終わりね」
すっと、なんのためらいもなく花純が立ち上がった。隣のぬくもりを失った拍子に僕はよろけてしまう。慌てて座椅子に手をついて倒れるのを防いだ。指先に触れるものがあった。厚みのある紙のようだった。茶封筒が置かれている。おかしい。これは花純のものになったはずだ。どうして。
「デートしてくれてありがとう、誠実さん」
花純がゴンドラのドアを開けた。危ない。声をかけようとしたが、そこはもう地上だった。彼女は僕を顧みてから軽やかに降りていってしまった。
「ゆ……っか、花純っ!」
名前を、ほんとうの名前を呼び、彼女を追いかけるべく僕も急いで観覧車を降り、階段を駆ける。階下に広がっていたのは人ごみだった。休日、行楽地は人であふれる。人ひとり見つけるのがどんなに困難か。それも連絡先を失い、フルネームを知らない、そんな女の子を捜す中年男を誰が信用するだろう。冷たい瞳しか、僕に向けられやしない。
ライブハウスの壁に寄りかかり、そのままずるずると崩れ落ちる。それは激しい自責だった。道を踏み外したままでは生きていられない自分への、踏み外したと信じている道を正しいものと思い込めない自分への呵責だ。いくら悔やんでも、もう火遊びなんててきとうなことを言えた義理じゃない。
もう、一面を焼き尽くすまでにそれは威力を持ってしまっていたのだ。いつから劫火になったのかもわからない。頬が濡れたような気がする。風が吹き付けて冷たいんだ。
僕はなにも希望がないと知ったって、それでも焼失した風景を懐かしんで歩き出せないだろう。歩き出せてもたびたび振り返って、ときどきは戻ってしまうかもしれない。期待してしまう。
「花純……」
僕の焼け野原には、なにが咲くのだろうかと。