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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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焼け野原にはなにが咲く

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観覧車には隣りあって座った。僕は右、ユリアが左だ。身体の内側がぴったりとくっつく。彼女の腕はむっちりしていて、質量感があった。本人は嫌がったけど、僕はそこをぎゅっと握るのが好きだった。
「結婚する人、なんて名前?」
窓の外をぼんやりながめながらぽつりとユリアが訊いてきた。金づるを奪う女を知りたいのだろうか。僕も彼女に会わせて声のトーンを落として言う。一万円札が何枚か。それでも多少なりとも感傷的になる。近く、遠い背中は振り向かない。
「亜貴」
「かわいい?」
「きりっとしてる」
「いつから?」
「去年の十二月かな」
「クリスマスは私にくれたの」
「そのあとだよ。大晦日、鐘つきにいったなあ。初詣も」
「よかったね、誠実さん。マジで」
優しい声だった。ユリアが体重をゆっくりかけてくる。その小さな頭は僕の肩にはとどかず、二の腕のあたりに落ち着いた。そっと腕をまわし、肩を抱いてみる。すると、彼女が完全に力を抜いた。あまりこういうことを彼女にしていない。してはいけないような気がしていた。頭の中に紙幣が散らばる映像がいつでも流れていたからだ。
僕の手のひらで包んでしまえる肩が呼吸のたびにふるえる。
「心配してたんだよ、私は。私みたいなの捕まえて、いいのかなーってさ」
「よ、余計なお世話だよ……」
力ない反撃はまったくの無効で、ユリアがふっと笑った。
「だからよかったなって思ったわけ。ちゃんと結婚するんだーって。でもさあ、私に声かけた理由が三十になったんだし火遊びしてみよう、っていうのがまた誠実さんらしくてかわいいよね」
「かわいいはない、かわいいは」
「あるってば。だってマジメじゃなくないと、そんな言い訳しないもん。悪いことした中学生みたいでかわいいの」
「中学生……もう僕は三十三だよユリア」
「知ってるよ」
それきりユリアは俯き、ぱったりと喋らなくなった。僕も同じように口をつぐんで彼女を見る。会話がなくったって、焦らない。金銭ぶん、隣にいればいい。今日に限っていえば、ユリアがしたいならそれでいい。僕は今日しか彼女のものにはなれないのだ。