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木村 凌和
木村 凌和
novelistID. 17421
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メリッサに愛を

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「カーター、後は頼むわ。会議の時間だから」
ミリーが目を覚ましたのを見ただけで、セピアは時計も見ず足早に医務室を出ていってしまう。
「すみません、水、を」
 がらついた声でミリーが言う。医者に手渡された水を、ミリーは一気に飲み干した。
「いつもこうなんです。寝て起きると喉がひどくて」
 ミリーが首をさする。機械を隠していた毛布を引き寄せ、きっちり喉元を隠した。
「ありがとうございます。こぶが増えていなくて安心しました」
 頭を下げ笑顔を見せるミリーにつられてカーターも顔が緩んだ。つい立の内側に入る。
「栄養失調だそうだ」
 点滴台を見、ミリーが頷く。
「そうみたいですね。貧血は慣れていますけど、栄養失調は久しぶりです」
「流動食しか食べられないなら、今までどうやって栄養失調を防いできたんだ?」
 メリッサでもリゾットしか食べていなかったということは無いだろう。喉の機械といい、メリッサは地上よりも技術が発展しているのだから。
「サツキ先生が、医者の方が、定期的に点滴をしてくれていました」
いくら空に島を浮かべる事ができても栄養失調の解決法は地上と変わりないらしい。
「その、サツキ先生っていうのは?」
「お医者さんです。私とテレサの体調を管理してくれていました」
 サツキとテレサ。初めて出る名前に、どちらを追及しようか悩む。ミリーと同じ医者にかかっていたという事は、テレサの首にもあの機械が付いている、言代機という事だろうか。それよりも今重要なのは機械に関わっていると考えられる医者の方だろうか。
「その医者の事をもっと詳しく教えて欲しい。地上にいるなら、その、喉の事を聞きたいから」
「若い男の人です。黒髪で、いつもコーヒーを飲んでいて・・・。クレハという名前の妹さんがいました。三歳くらいの。可愛い子で、先生はすごく大切にしていて、可愛がられていて。でも、」
 少し考えてから、ミリーがぽつり、ぽつり言う。次第に饒舌になって、尋問の時とは比べ物にならない程喋った。
「クロエに聞いた話だとあまり良い噂は無いみたいでした。私には良い人にしか見えなかったんですけど」
「噂?」
「はい。技師の人とコソコソ何かしていたとか、隠れて人体実験をしているとか」
 相当怪しい類の医者らしい。変な研究に傾倒してメリッサに行く様な男だ、まともな奴ではないだろう。そうでなければ、少女の首にあんなものを付けたりするわけが無い。
「他には?例えば、最後の日にどうしていたとか」
 確かメリッサでも聞いたクロエという名前も気になったが、それよりも医務室の医者の様子が気になった。口止めはしてあるものの、出来る限りミリーがメリッサの生き残りである事、言代機の事は知られたくない。
「最後の日に?・・・よく覚えていません。最近思い出しかけているんですけど、墜落した時の事は何も思い出せないんです」
 ミリーは一度聞き返してからやっとそれがメリッサの墜落した日の事だと理解して、眉間に皺を寄せた。
 思い出せないという答えにやっと合点がいく。ミリーがメリッサが墜落した事を知らないのは覚えていないからだと。ただ、随分都合の良い記憶喪失だ。
「なら覚えている限りでいいから、その日サツキ先生は何をしていた?」
「クロエに言われて技師の人の所に行った所で会いました。技師の人はいなくて、サツキ先生の所で点滴をしてもらって、そこで妹さんに初めて会って・・・。これ以上は思い出せません」
 記憶を辿って話すミリーは首を横に振った。
 記憶喪失が本当であれ嘘であれ、今日はこれ以上聞き出せそうもない。カーターはつい立の外側へ、つま先を向けた。
「それなら思い出したら聞かせてくれ。医者の方は一応探してみる」
 翌日、朝食のリゾットを持ってカーターが医務室を訪れた時、ミリーは医者に背をさすられながら水を飲んでいるところだった。
「おはよう。どうかしたのか?」
 ありがとうございます。医者に礼を言うミリーの声は未だにがらついている。二杯目の水をゆっくり飲み干して、ミリーはカーターからリゾットの器を受け取った。
「おはようございます。空砲、って言うんですか?それの音に驚いてしまって」
「ああ、今日は前夜祭だから、それのせいだ」
「前夜祭?」
「明日大きな式典がある。魔導士と騎士が新しく何人か任命されるらしい」
 魔導士は王国内の魔術師の中から、騎士は王国軍の中から抜きん出た実力を持つ者が選び出され、国王によって任命される。毎年必ず行われる行事ではない上、数年前に史上最年少で少女が魔導士に任命されて以来の任命式とあって、街は数日前から浮足立ち、前夜祭の今日は既に朝からお祭り騒ぎである。と、説明するとミリーは眼をきらきら輝かせた。
「まさか行きたい、とか」
「駄目ですか?」
 首を傾げるミリーにねだる積もりは無い。無意識が一番性質が悪いのだと、カーターはセピアの副官をしていて身に染みていた。染みていた、が、いつだってそれに弱いのはどうしようもない。
「……隊長に掛け合ってみる、が期待はしないでくれ」
 カーターが声を絞り出すと、ミリーは笑顔でありがとうございますと言った。
 何てことを言ってしまったんだろうとカーターが早くも後悔する横で、ミリーはうきうきとリゾットを咀嚼する。良く見るとミリーは中身も外見も幼い。初めこそ警戒していたが、すぐに口が緩くなったり、こうして無邪気な様子を見せたりする。化粧をしていない顔は相変わらず顔色が悪いものの、眼は大きく鼻と口はちんまりとしている。ちびちびリゾットを食べる様子は小動物にも似ていて、可愛らしかった。
「そういえば、声の事、話していないんですね」
 食後にカーターがあげた飴玉を舐めながら、ミリーが思い出したように言う。
「さっきあの人が来たんです。着替えを持ってきてくれて。その時に何も言ってこなかったので」
 二階に来る時にセピアとすれ違ったのはそのせいだったらしい。
カーターは、なぜだかミリーの喉の機械が声を変えるためのものだという事は未だにセピアに報告しないままでいる。それと、変な記憶喪失の事も。これ以上セピアに隠し事が増えるのは上層部との折り合いもあって避けたいのだが、何から何まで報告するのはミリーに良くないと思ってしまう。
「何か言ってたか?」
「サツキ先生の事は探し始めたところだって言っていました。あと、上に話が通ったから今度お風呂に連れて行ってくれるって」
 セピアはセピアなりにミリーによくしようとしている。それでもミリーの中で彼女に対する印象は悪いままの様だった。誰だってあんなふうに誘導尋問されれば良い気はしないが、そもそもミリーは誘導せずとも聞きたい事は聞き出せるような気がしてならない。
 ミリーと朝食を終えたカーターはセピアの執務室を訪ねた。サツキを探し始めているなんて耳にした記憶が無く、それを確認したかった。それは口実で、ミリーが前夜祭に行きたがっている件について許可を取る方が本命である。
「医者の話も上に通したんですか」
 どうしたの、言いかけたセピアの顔が険しいものになる。
作品名:メリッサに愛を 作家名:木村 凌和