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グレートマザーの赤と青

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 異常なんだよ、と吐き捨てるように呟き、宏至は斜め下の地面を睨んだ。私は彼の言う「権利」という言葉の意味がよく分からず、それを舐めしゃぶるように反芻した。宏至の言葉を口に含んでいるうちにもやもやとした反感が湧いて出て、それはちがうよ、という言葉が声になりかけたが、結局私はそれを口にはできず同時に首を傾げた。何がちがうのか、私ははっきりと考えをまとめることができない。宏至は沈黙の長さにいらだったのか、鈍く舌打ちをした。
「あのアル中母ちゃん、何もしてくんねーんだろ? 稼いでもこねーしメシ作ってくんねーし、子供に学校行かせない親なんて親って言わねーんだよ。目覚ませよ」
 ちがうよ、と私は自分でも驚くような強い声でそう言った。お母さんは私がいないとだめなの。私がいないと死んじゃうの。宏至はそれを聞くと顔を紅潮させて「ばっかじゃねーの」と怒鳴り、大股で公園を出て行った。私は彼の背中を黙って見送った。宏至の言うことはきっと正しいのだろう。しかし私の家族は母だけなのだ。両親も兄弟もいる「普通」の宏至には、一人の肉親を捨てることがどれほど大きなことなのか分からないのだ。事実その時の母には私しかいなかった。私だけの母だった。赤黒い目をした母が、幻覚の中で必死に伸ばした手は私だけに向けられていた。私は私という存在をただ必要とされていた。しかしそれもあの男が現われるまでの話だ。

携帯がないのでどうも落ち着かない。夏の夜を散歩していた私は草いきれのする青臭い夜道で立ち止まり、来た道を戻り始めた。母があの男の車から降りてくるのを見たのは、この道の先にある駐車場だった。
作品名:グレートマザーの赤と青 作家名:まちこ