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十五の夏

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「お前は最初、別に死んでもいいって思ってただろ。自分が死んでも何も変わらないって。でもここに来て、ちょっと変わっただろ。お前の頭は死んでもいいって思い続けてる。でも心は、お前の心は、ここに来て変わった。何を思ったかは知らない。でも、心は、生きたいって思った。死んだらどうなるんだ?世界が変わったらなんだ?」
ちょっとわかりにくい表現でキリは語った。真由自身すら知らなかった、本当の気持ちを。
「だめだよ、命、粗末にしちゃあ。ちょっとでも悔いがあるんなら、簡単に捨てんな。死んだらなんも残んないよ。ならさ、自分の心にだけでも残しとこうよ。」
キリはそう言って、いきなり真由の手をぐいっと掴んで走り出した。裏庭の柵を越えて、近くに止めてあった自転車にまたがった。
「あるんだろ、なんか。やり残した事がさ。連れてくよ。お前が望むんだったら、北の端でも南の果てでも。どこでも。つきあうよ。」
キリは真由に手を差し出した。
「じゃあ、」
真由はキリに場所を伝えた。キリはペダルに足を掛け、自転車を唸らせて風のように出発した。
 潮の香りと草木の香りが混ざり合った、懐かしい匂いがしてきた。キリは今も止まることなく自転車をこいでいる。かれこれ四十分は走っているはずだ。
「キリ!ここ!ここだよ!」
キリは急ブレーキをかけて自転車を停止させた。止めた瞬間、自転車を放り出して倒れ込んだ。
「ひいい!疲れた!」
そこは海だった。山の中を抜けて、海にやってきたのだ。すぐ後ろにはまだ山がある。後ろから蝉の声が嫌というほど聞こえてくる。目の前に広がるその海は、真由がよく帰省時に父親と遊んだ海だった。ここには、父親との思い出がたくさん留まっている。父親だけじゃない。家族の思い出が詰まっている。貝殻集めやすいか割りや海水浴。そこにはたくさんのかけがえのない思い出があった。それまで思い出せなかった思い出も、ふつふつと心の底から湧きあがってくる。そして、
「泣いてるのか?」
寝ころんだままキリが真由に問いかける。真由は泣きながらにっこり笑って頷いた。
作品名:十五の夏 作家名:鋳刀純