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十五の夏

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声がした。子供の声だ。しかし姿はない。あたりを見回していると、柿の木の枝の下から、何かがぬうっとでてきた。子供の顔だ。真由と同じ麦わら帽子をかぶっている。髪は黒く、短くて、男だか女だかわからない。真っ黒に日焼けしている。その顔がいきなりにっと真っ白い歯をみせて笑った。真由は驚いて少し引いた。
「へっ。ごめん。びっくりした?」
その子供は見事な宙返りをして柿の木から飛び降りた。子供と言っても、真由より少し年下くらいである。
「あ、あんた、誰?近所にあんたみたいなのがいたの見たことないんだけど。」
少しどもりながら真由は子供に訊いた。子供はまたにっと笑って白い歯を見せ、真由の隣に座った。
「これ食っていい?」
質問に答えることなくそう言った。すいかを指さして。
「え、い、いいけど、別に。」
「どうもっ。」
そういってすいかをとると、一口ですいかの半分を食べてしまった。
「あんた…名前は?」
口の周りにすいかのかすをたっぷりつけながら頬張る子供に、真由は問いかけた。
「キリ!」
誤算だった。名前で性別が分かるかもしれないと思ったのに、男だか女だかわからない名前が返ってきた。この口の悪さは男だろうか?
「男?女?」
「見るからに女じゃん。」
見るからに男だ。
「いくつよ?」
「十五。」
真由には、キリは同い年にしては幼稚に見えた。
「お前さァ、」
「は?」
キリがいきなり喋りかけてきた。
「なんでそんな悲しい顔してんの?」
「別に悲しい顔なんてしてないし。」
「うん。お前自身は悲しいと思ってない。だけど、」
そう言ってキリは立ち上がり、真由の前に躍り出て、真由の左胸を指さした。
「お前のここが悲しがってる。」
真由は自分の左胸を見下ろした。かすかではあるが、トクン、トクンと上下に動いている。
「はァ?マジ意味わかんないんですけど。」
「お前、死ぬんだろ。」
真由は戸惑った。死ぬことは先刻承知済みである。それなのに、わかっていたのに、改めて言われると少し傷ついた。それに、キリはなぜそれがわかったのだ?
作品名:十五の夏 作家名:鋳刀純