十五の夏
脳腫瘍ができていた。思った以上に進行ははやく、視野欠損まで発症していた。脳に腫瘍がある場合、摘出も可能だし、放射線治療という手もある。しかし、真由はもうどうでもよかった。悪性で、進行もはやい。また一か月すればきっと今度は起き上がることすらできなくなる。医者は持って三カ月と言っていた。あと二週間で十五歳だ。十五まで生きれば十分なんじゃないか。もしここで生きながらえたとして、ここから先、幸せになれる保証はないし、手術がうまくいかなかったら手足が不自由になるかもしれない。入院代や手術代だってそう安いはずがない。これでは母のいいお荷物でしかない。このままでいい。自分なんていない方が母の為になる。これまで母の為に頑張ってきた。もうそろそろやめたって、罰はあたるまい。
検診後間もなく、真由は学校をやめた。校長は休学扱いでもいいと言ったが、真由にはもうまた学校に戻る気力がなくなっていた。
季節は夏。受験生ならひたすら勉強漬けだろう。しかし、そんな十五の夏を真由はのんびり過ごしていた。夏休みに入ってすぐ、母親は真由を連れて帰省した。真由は母親の実家で十五歳の、そして、おそらく最後の誕生日を迎えた。
「真由ちゃん、誕生日おめでとう。大変だったね。ゆっくりしていくんだよ。」
ゆったりとした口調で祖父が真由に言った。祖母を亡くしている祖父にとって、真由の気持ちは痛い程わかっていた。真由は力なく頷くことしかできなかった。
三年ぶりの帰省は、真由の心を和ませた。小さい頃によく登って遊んだ真由と同い年の裏庭の柿の木も、少し歪んだ階段も、色褪せた畳も、いとことすいかの種を飛ばして遊んだ縁側も、全て変わっていない。そんな懐かしさが真由には心地よかった。
真由は白い薄手のワンピースに、麦わら帽子をかぶって縁側に腰かけた。庭では向日葵が大輪の花を咲かせている。柿の木には青葉が茂り、その向こうには大きな入道雲。大好きな光景だった。八月、夏真っ盛りの光景である。真由は祖父が持ってきてくれたすいかをひとつ取り、口に頬張った。口に含んだすいかに種が入っていたので、昔やった種飛ばしをしてみた。手前の柿の木の枝の上を飛び越えて、より遠くに飛ばした人の勝ち。真由は立ち上がり、息を吸い込んで勢いよく種を飛ばした。
「おわっ!」