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むべやまかぜを

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 「花世でいいよ」
 「ああ、では、丸山花世さんに手伝って欲しいと」
 少女は受け取った二冊の本を丁寧に岡島に返そうとする。
 「それは、差し上げます」
 編集に言われて少女は作品を引っ込めた。少女には嫌悪の色はない。どんな作品も作品は作品。少女は本を傍らにやるとにゅうめんに取り掛かる。早く食べてしまわないと冷めてしまう。
 「手伝うってことは、ええと、それって私に、エロ小説を書けってそういうこと?」
 「ええ、まあ」
 岡島も相手が女子高生ということで気を遣っている。
 「触手とか、調教とか、異世界の怪物にレイプされるプリンセスとか、そういう奴だよね?」
 「はい。いわゆる官能小説というものではなくて、あくまでオタク世代に向けた、夢とファンタジーの世界というか……」
 「うーん」
 少女は困っている。
 「結構難しいよね、ねえ、アネキ?」
 丸山花世は先輩に援軍を求めるように言った。女主人はこう言った。
 「書かない? それとも書けない? 意味は全然違うわよ」
 『書かない』というのと『書けない』というのでは意味が違う。丸山花世もそのことを理解している。
 「うん。まあねえ……書かないんじゃなくて、書けない、のか。エロ小説って、案外難しいんだよね。なんでもいいから書けばいいってもんじゃないし。女が書くものって、男が読みたいものとビミョーに違う……」
 丸山花世は思案顔である。
 「エロ書けるって、結構すごいことでさ。エロ書ける人はどこででも通用するって、これは、WCAの偉い人が講義の時に言っていたことだけれど。私にそれができるのかね。時間かければ案外できるものなのかもしれないけど。ああ、その前に一応聞くけれど、それ、どれぐらいの時間がもらえるの?」
 花世は職人のような表情で岡島に尋ねた。もちろん彼女は状況がそこまで切迫しているとは思っていない。
 「二週間ですね」
 岡島はさらりと言い、花世は不思議そうな顔を作った。彼女は相手が言っている意味を理解していない。
 「四月の十日に刊行したいですから、できれば十日ぐらいであげてくださるとありがたいのですが」
 「今日、三月十五日でしょう?」
 丸山花世は怪訝な顔をしている。そんな馬鹿なことがあるのか? 計算が間違ってないのか?
 「そうですね。三月十五日です」
作品名:むべやまかぜを 作家名:黄支亮