むべやまかぜを
「私もアネキと同じ意見だよ。なんかさー。時々、大手の編集に、ひどく選民ぶってるクズがいるんだよね。俺達が時代を作ってるとか。テメーが時代作ってんだったらなんであんたの会社赤字なんだよ。私が小娘だと思ってえらそうに振舞いやがって!」
少女の意見は辛い。
「出版業界って……結局は広告とってなんぼじゃんか。でも、紙の広告って、動いているお金の部分ではウェブ広告にとっくに抜かれててさ。で、小説っていうジャンルは、そういう広告とってなんぼの出版の世界にあっても完全に傍流なんだよね。っていうか、世の人に見捨てられた存在?」
丸山花世は続ける。
「結局、日本の経済活動で傍流の日陰者でさ。で、エンターテイメントの世界で考えても、映画とかテレビとかゲームとか携帯電話とかあってさ。そういうのに比べても小説って傍流なんだよね。なんか、いつの間にか同人のゲームにも負けてるし……」
歯に衣着せないもの書きヤクザの言葉に岡島もさすがに怯んでいる。
「世の中の仕組みで見ても傍流。エンターテイメントの中でも傍流。ダブル傍流? で、そういう中で純文学のほうがえらいとか、ミステリが上だとか、ライトノベルは下だとか……馬鹿じゃん。不況の前にはどいつもこいつもいっしょだっつーの!」
「……」
「ルサンチマン抱えている奴にかぎって自分より弱い相手に偉そうに振舞うんだよね。本当はマスコミ人を気取りたかったのにオタク相手のライトノベルに配転されて、俺ってなんて不幸! それを悟られまいと偉そうに振舞ったり。アホかテメーッ! オタクなめんなっつーの!」
岡島はいたたまれないようである。けれど。少女はそんな岡島を応援しているつもりなのだ。
「オカジーもさ、そういう大手編集みたいなのになっちゃだめだよ。ちょっと卑下するぐらいが人間一番良いんだよ」
「はあ……」
女子高生は言いたい放題である。そして、岡島はいつの間にかオカジーという愛称を戴いていたのだ。
「で、えーと……なんだっけ?」
少女はあまり記憶力の良いほうではないのかもしれない。
「ああ、そうだ、本だよね。エロ小説……」
少女に言われてオカジーのほうも自分の役割をようやく思い出した。
「あの……それで、もし良かったらですが、ちょっと手伝って欲しいのです。ええと……丸山さんに」