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むべやまかぜを

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 「だってさ、おとといだよ、メール貰ったの。ダンナと競輪、見に行こうって約束した次の日で……」
 ――もしかしたら伊澤さんからも連絡いくかもしれない。あの人も相当ショックを受けていたみたいで……。
 「……」
 ――たっつんさ、山形の大地主か何かのご子息で。なんか家庭環境がいろいろと複雑みたいらしくてさ。後妻か何かの子、なんだよな、たっつん。で、、オヤジとなんかもめてたみたいで。それで東京に出てきたんだって、以前、そんな話を岡島さんから聞いたことがある。
 それは先般、龍川が話してくれたこと。負け犬のようになって逃げ出した素封家のお話。あれは、自分の父親の話であったのか。そうではないかと丸山花世も思っていたのだが……。
 ――そういうことなんだ。とりあえず伝えたからな。
 「あ、うん……」
 ――競輪見に行くのは、また今度な。
 「……」
 山田は電話を切りかけ、そこで丸山花世はあわてて言った、
 「あのさ、ダンナ……」
 ――ん、なんだ?
 「今回の作品か……たっつんの遺作ってことだよね。絶筆」
 そうだな。山田は言った。
 「それって……それって、いいのかな。そんなので。そんなふうなのでいいのかな……こんな、エロラノベが絶筆だなんて……そんなの、たっつん気の毒に過ぎないかな。もっと、もっと、いろいろと書きたいことってあったと思うんだ。もっと……」
 世の中にはくだらない連中であふれている。物書きヤクザに言わせれば、こいつは死んだほうがいいというような連中が大手を振ってのさばっている。一方、龍川は薄幸にして夭折した。何かおかしい。何かが間違っている。
 「もっと……そう、もっと、いろいろなものを書いてみた見たかったと思うんだ。たっつんは、阿諛追従が得意なだけのチンピラライターとか、編プロに入って仲間内で仕事回しているような、そんな奴らよりもずっと実力があって……だから、こんなのはやっぱりおかしい。何かが間違っている。底辺の底辺で……それで、そのまま日の目も見ず死んでいくなんて、そんなの世の中狂ってるよ」
 丸山花世は吼えた。山田は少しだけ沈思して、それから言葉を選ぶようにして言った。 
作品名:むべやまかぜを 作家名:黄支亮