むべやまかぜを
メールで指示を出し、その返信を確認。こちらで書いた原稿を添付したメールを送り、イラストの確認。それから分隊の部下から上がってくる原稿の確認。確認した原稿をつなぎ合わせ、張り合わせする。
龍川とイツキで話をしてから七日後。
編集者岡島の期限を一日遅れたが、ついに前代未聞のパッチワークのエロ小説は完成した。
小さな雪深い王国で起こる淫らにして安っぽい物語。
けれど、それは物書きヤクザを筆頭に、仲間達が必死の努力で完成させたもの。まさに血と汗の結晶。
「うーん。できた……いいのできたんじゃないの?」
物書きヤクザは少し興奮している。
「テキトーにやったにしては、うん。いいね、いいね……少なくともとチンゲヌスよりはましだっつーの!」
少女は作品を見返している。
鎧に犯されるハイミス、ヨハンナの屈辱。純潔を守ろうとして果たせず、堕ちて行く女王の敗北と恍惚。気丈なヘンリエッタの戸惑い……丸山花世が率いた分隊の兵士達はそれぞれが最高の力を発揮している。
「こりゃー、女の私が見ても、ぞくってくるねー! うんうん! これは……これは、そこそこの傑作だな」
少女は頷いた。伊澤、山田、龍川と、三人の分隊員の違いについては丸山花世はなるべく消したつもりである。もちろんそうすることは、本人達の了承を得た上であるが、それでも、塗りなおした文字の下に透けて見える原画の色は完全に消しきることが出来ないし、そのようなことが不可能であることは物書きヤクザ自身も理解している。
「やっぱ、三人とも雰囲気が違うよなー。手堅くて王道の伊澤のおっさんに、ひねた言い回しの山田のダンナ。で……」
龍川の書いたヘンリエッタには……僅かに苦悩と迷いがあるように丸山花世には感じられた。
――これで良いのか。これで。
作品に対する問いかけは、多分、龍川自身への問いかけ。
自分の書き方はこれで良いのか。自分の作品はこれで良いのか。自分は愛される人間か。自分は幸せか。幸せなのか。
自分に対する問いかけがヘンリエッタの言葉に表れ、行動に顕れている。龍川の思いが作品に深い陰影を与えている。
「作品は人。作品は人生。作品は人生の交差点」
作家達。編集。そしてイラストや校正。取次ぎであるとか販売員。そして読者。一冊の本は、人生そのもの。