むべやまかぜを
納得がいくようないかないような。龍川は首をかしげている。
「たっつん、ライターと作家は違うんだよ。それは、コマーシャルフィルムと映画が違うのと同じ。綺麗なコマーシャルフィルムを撮れる監督が良い映画監督とは限らないっしょ。画家とイラストレーター、漫画家とイラストレーターだって違うじゃん。似てるけれど違う仕事って結構あるんだよ」
少女には少女の節がある。
「たっつんも自分のことをライターなのか、作家なのか、どっちなのかはっきりさせといたほうがいいと思うよ」
君はどっちなの? とは龍川は尋ねなかった。少女は自分をライターだとは思っていないことはいまさらに確認するまでもないこと。
「ふーん。ライターと作家は違うか。そんなこと、僕は考えたこともなかった。同じものだと思っていたし」
感心したような、しないような。若者は丸山花世の説の是非を頭の中で考えているようである。そして、それまで黙っていた店の主が言った。
「そういう考え方もあるってことだから。花世は原理主義者だからね」
「アネキだって同じようなもんじゃんか」
「そうね」
大井弘子は穏やかに笑っただけだった。言葉にするかしないか。その差がいかに大きいか。アネキ分と妹分の違いは結局はそこにあるのか。大井弘子はそして言った。
「龍川君。時間をどうやって作るのか、そういうことよね」
それは、若者の質問に対する答え。龍川は作家とライターの違いについての講義を突然頭に押し込まれて僅かに混乱しているようで、だから、女主人の言葉に一瞬ぼんやりとした表情を作った。
「時間。仕事とどう両立させるか……それを聞きに来たんでしょう?」
「あ、はい。そうです。どうすればいいのかなって」
若者は頷いた。本当は……ほかにも目的があったのかもしれないが、とりあえず、今はそれだけでいい。
「それはね、龍川君、自惚れを捨てるといいと思うわよ」
大井弘子の言葉は澄んでいた。
「自惚れですか? 僕は、自惚れてなんかはいないですけれど。だいたいどうして自惚れが……」
「自分はもっと良く書ける。もっと立派に。書き直せば、もっと良くなる。もっともっと。だから時間が足りなくなる。でも、書き直せば良くなるというのは、それは本当?」
「……」