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むべやまかぜを

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 「エロの人たちもさ、会って話してみると面白くて。まあ、ひどい奴らもいるみたいで、だから、私なんかは実は、そいつらのほうを一度見てみたかったんだけれど。仕事を一緒にはしたくないけどさ」
 丸山花世は箸を振り回しながら続ける。
 「なんか山田のダンナの話だと、自分でまったく書けずに、百パーオカジーが手直しをしてようやく売り物に仕立て上げたって、そういう奴もいるとかなんとか……私、そいつに会ってみたいと思って」
 と、話しかけていた少女の言葉が止まった。
 誰かが店に通じる階段を下りてくる。すでに暖簾は下げてあるのだが。
 「あれ、誰かな」
 少女は足音に首をかしげ……そして来客が何物であるかはすぐに明らかになった。
 「あの……」
 傘を二本かかえてやってきた若い男性。物書きヤクザはその人物のことをよく知っていた。
 「あれ、たっつん、なにやってんの?」
 龍川。律儀で生真面目なエロ小説家。龍川のほうも、花世が店にいることにわずかに驚いているようである。
 「丸山さん、なんで?」
 「なんでって、あんた、ここは私のアネキの店じゃんか」
 物書きヤクザはおかしな顔をしている。何故こんなときに、こんな場面で龍川が現れるのか。
 「たっつん、あんた、ノルマ終わったの? まだ、ヨハンナとヘンリエッタのレズのからみのシーンに途中でしょ?」
 丸山花世は言った。レズのからみのシーンの催促をする女子高生というのも、たいがいなことであるが……。
 「ああ、うん……それは、まだ……ちょっと……」
 編集よりも怖い鬼の分隊長。龍川は困惑気味である。
 「まあいいから。入って。龍川君ね。花世から話は聞いてるわ」
 大井弘子はそのようにして来客を促した。龍川は少し緊張をしているようである。物書きヤクザはその様子に鋭い視線を送っている。
 「いや、今日は、その、傘を返そうと思って……」
 ガテンの若者はモゴモゴと言った。
 「まあ、そう言わず。ビールでもどう?」
 「いや、その……」
 傘を返しに。
 傘は……岡島に渡しておいてくれ。丸山花世はそのように言ったはずだが。
 「ふーん」
 物書きヤクザは疑惑の視線を龍川に向けている。こういうことはしばしばあること。と、いうか毎度のこと。
 「たっつん、アネキの顔、拝みに来たん?」
作品名:むべやまかぜを 作家名:黄支亮