むべやまかぜを
やってきたのは……小娘が一人。ショートヘアーの少女。美醜を問われれば『不細工ではない』という実に微妙な返答が戻ってくる、そういうタイプの人物。十人並みよりちょっと上。好きな人は好きな顔。不快感を与えて万人に嫌われるタイプではないが、多くの人に支持される人物でもない。B級プラスというか、A級マイナスというか……。店の主はそんなハンパな娘に言った。
「雨降ってたの? タオルあるわよ?」
中性的な少女はタオルを受け取って頭を拭きながら言った。少年のようなしぐさをする娘であった。
「あ、うん。だいぶ強くなってきた……」
少女はどちらかというと物怖じしないタイプ……であるらしい。気取らず飾らず。特段に化粧をするというわけでもない。
「朝からずっとゲーセンでメダルゲームをやってたんだ。結構出したんだけれど、全部呑まれた……」
少女は制服のブレザーを着ている。三月半ばであれば、春休みであるのだが。
「補講は?」
女主人は訊ね、少女はこともなげに答える。
「サボった。で、なんだったっけ?」
万事物事にかまわない娘はそういって席についた。受け取ったタオルは首にかけたまま――銭湯帰りのような有様であるが少女は気にしない。
「作家がいるとかいらないとか……アネキ、なんなのいったい?」
少女の言葉に編集者は食いついた。
「アネキ……妹さん? 一矢さんの?」
岡島の言葉に今度は少女が言った。
「誰? この人?」
そして二人を知っている女主が言った。
「これは花世。丸山花世。私の親類……まあ、でも妹みたいなもんか」
少女は笑いもせずに軽く頷いた。
「で、花世、こちらは岡島さん。ペルソナマガジン社の編集さん……」
仏頂面で頷くだけの花世と違って編集はサラリーマンであり、だから『挨拶』という儀礼がこの世にあることを知っている。
「岡島です」
編集殿は名刺を出して、それを少女に渡した。女子高生は、ふーんと言いながら名刺を手にとって眺めている。
「で、何なのよ、その岡島さんが」