むべやまかぜを
丸山花世の頭の中にはすでに物語の終着点が描き出されている。
「それで、そこには古い時代の鎧があると。それを着けたヨハンナがいろいろと悪さを始める。女王に襲い掛かったり。で、ヘンリエッタが助けに行くのだけれど……返り討ち。って、返り討ちにあうような騎士じゃどうにもならないんだけれど、負けないとエロにならんからさ」
――そうですよね。勝っていてはエロにならない……。
岡島もそんなことは分かっている。
――それで、あの、このお話、最後、どうやって終わらせるつもりですか? エンディングについてはさっきいただいたメールには書かれていなくて。
「あれ? 書いてなかった? ごめん。忘れとった。ええと、聖遺物は実は、ヘンリエッタの一族の血筋そのもので、各地にあった古い時代の邪悪なものを封じるために救世主が遺していったものって……そういうオチにしようかと思ってるんよ。なんか、いいネタがあったらよかったんだけれど、月並みなエンドになってしまった」
少女はちょっとだけ苦い顔を作った。もう少し、なんとかならなかったのか。けれど、いろいろと考えた末の結末がそれ。落としどころというものを見つけるのは実は相当難しい。
――いいですよ。そんなに難しいものを望んでいるわけではないですし。無理言ってんのこっちですから。それにこういう作品の作り方はこれっきりだと思いますから。
もうちょっとうまい方法はないのか。もう少し綺麗なエンディングは持ってこられないか。それは花世も悩むところ。だが。時間がない。
「あとは、まあ、ほかの三人の力量次第。祈るしかないよね」
少女は適当に言った。そして岡島のほうは一番気になっていた作品の結末を聞いて少しだけ安心したようである。
――分かりました。それではできた分だけ、作品送ってください。
「あ、うん。分かった」
丸山花世は頷き、そこで編集からの電話は切れた。
そして画面には司祭ヨハンナの姿。少女は自分の頭の中にあるものが現物として目の前にあることに満足している。
「こいつは、面白いね」
キメラみたいな作品を作る意味はあるのか? 何の価値がある? やってみれば全てのことには価値があるのだ。
三月二十二日。
午後十時。場所は新橋の小さな居酒屋イツキ。