むべやまかぜを
それはきっと若者の叫び。ずっと溜め込んできたは龍川の想い。そしてそこで丸山花世はしみじみとした口調で言った。
「……たっつん。あんたはいい奴だよ。尊敬に値するいい奴だ。私はあんまり誰かを褒めたりしないんだ。だから、私の褒め言葉は素直に受け取って」
「……」
龍川は生意気な小娘の言葉にちょっと赤くなった。丸山花世。誰に対しても上から目線。いったい貴様は何様であるのか……と、龍川は憤らなかった。それは丸山花世が真顔であったから。物書きヤクザは奇矯な人物だが、誰かの真剣な想いを薄笑いでごまかしたりはしない。
「……丸山さん、君は……あんまり見かけないタイプだね」
「ああ? そうかね?」
「みんな僕の言葉を聞くと……なんていうか、逃げてしまうんだよね。本当の気持ち。本当のことだというのに、みんな、僕がそのことを言うと、半笑いのまま去っていくんだ」
若者は淋しげに言い、そして、丸山花世は語調を変え、轟然として応じた。
「本音語っただけで逃げるような奴ならいなくて結構だっつーの」
「……」
「そんな軽佻浮薄な奴ならば、むしろいないほうがまし。薄笑いでお愛想言ったって、そんな連中、どーせいざとなったらクソの役にもたちゃしないんだから。たっつんも友達選んだほうがいいんじゃねーの」
少女はずばりと言い、そのあまりの舌鋒の鋭さに龍川は目を丸くして、それから小さく笑った。その笑顔は、龍川の心からの笑顔であったのだ。
「君は……あれだね。強い人だね」
「そかね?」
それはいつもの丸山花世。本心しか言わない。建前なんかクソ食らえ。もっとも、そのせいで学校では浮いているが、だからなんだというのだろう?
「……うん」
龍川は何か重い荷物を下ろしたような、ほっとしたような表情を作り、それから言った。
「ここで別れよう。僕は有楽町線だから」
「あ、うん。私は新橋行くから」
「そうか……」
若い作家は頷いた。
「キャラ名、今日明日中に送るわ」
「うん。そうしてください。じゃ!」
龍川は律儀に頭を下げ、それから楽しげに笑って去っていこうとし、そこで花世が慌てて、言った。
「ちょ、ちょっと、待った!」
いったい何事か。足を止めるガテン作家に少女は傘を差し出した。