むべやまかぜを
龍川はうなった。若いガテン作家は腕組みをしたまま何かを考え込んでいる。そこで今度は物書きヤクザが言った。丸山花世の側にも言いたいことはあるのだ。
「ねえ、たっつん、あのさ」
「なんだろう?」
「エロの人って、案外まともだよね。山田のダンナも伊澤のおっさんもまともな人だったよね。私、エロの人ってもっと匂ってくるような人ばっかりだと思ってたんだけれど」
少女の言葉には僅かに失望の色がある。
花世は実は、もっと悲惨な会議を想像していたのだ。どこででも全裸になるような人間。下着を盗むのが趣味であるとか、覗きで逮捕歴有りとか、あるいは消しゴムを食べたり、機械油を呑むような奴。ほんとうにしようもない連中が大挙して集まっているのではないか。少女のそのような期待は完全に裏切られてしまっていた。
「伊澤さんも山田さんも一応選抜したんだと思うよ。岡島さんが」
「選抜?」
「まともでない人もいるんだよね。神経質で何かにつけてすぐに激昂する人とか、自分自分自分で、自分語りの鬱陶しい人とか。一作しか書いてないのに妙に偉そうに大家ぶったりする人とか。ただ、人を殺したり、放火をしたりとかそういう人はいないけれど」
「そりゃ、そういう奴らは塀の中から出られんでしょう」
犯罪者は作品云々という前に娑婆には出てこられない。
「特に若い作家さん、他人とコミュニケーションを取れない人、結構いるから」
「たっつんだって若いっしょ?」
「まあ、そうだけれどさ」
龍川は話し続ける。
「ネット作家とか、オタク上がりの同人作家とか。一冊本が出るのって大変なことなんだよ。だから作品が出たことで人生狂ってしまう人、いるんだよ。たかがエロ小説なのにね」
「……」
「すごく低い場所、すごく下のほうのポジションで小さくまとまって。落ちないで焼け残った線香花火みたいになってしまう人もいるんだ。そういう人は、やっぱり、人には合わせることができないし、会わせることもできないんだ。伊澤さんや山田さんは普通の人で……って、普通の定義も良く分からないけれど、少なくとも他人の話している内容とかは理解してくれる。人生経験豊かだし、常識人なんだよね、二人とも。岡島さんも、丸山さんには会わせていい人を会わせたんだと思うよ」
「オカジー……」