むべやまかぜを
「本当は名前を先にする。私はいつもそう。そうでないとイメージって固まらないから。でも、今回は時間がなかったし。ただ、幸いなことに今回はモデルとなるものがあった。みんなの……ちょっとオカルトチックな言い回しになるけど『魂』って奴? みんなの魂の形、それがポジとすればネガとなるような女性の雰囲気を絵にしてみた。で、今回はそのイメージにあう名前を後でつけていく。そういうことにしたんだ」
花世はなんでもないといった具合に言ったが、聞かされる龍川は首をすくめている。
「アニマ、アニムス……か」
「そう。そういうの。アネキに前に教えてもらったんだよ」
「なんか変な感じだね。あの女の子のイメージイラストが僕のネガだっていうのは」
「あんまり気にしないで。こっちも適当にやってるだけだから。説明はあと付け」
「でも、確かに言われてみれば、そうだよね。うん。女王様は伊澤さんに向いている」
うん。丸山花世は軽く笑った。
「あれだけの短時間でよくそんなところまで見ていたね。やっぱり女の人は見る目が厳しいよね」
「え? あ、うん……そうかね?」
少女は自分ができることは誰もができることだと思い込んでいる。
「それぐらいはすぐにできるんじゃないかな? 誰でも」
龍川は少女の言葉に何も言わなかった。そこで丸山花世は言った。
「時々、作者と作品は違うって言う人いるけどあれ、嘘だよ。作者イコール作品。物凄い変態の作家なのにびっくりするぐらいに清らかな作品作る人がいて。でも、それって当たり前なんだよね。根が深いほど木は高く枝を張れるわけで。って、こいつはアネキの受け売りだけど」
年は少女のほうが下。だが、龍川のほうはそんな少女のことを対等の存在と考えているようである。エロ屋には年齢も性別も関係ない。学歴も出身も関係ない。売れるものを作るものが立派なのだ。
「誰かの魂を書き写して、それをキャラにするっていうやり方も、実はアネキに教わったことなんだ。嫌な奴とか、むかつく奴に出会ったら、そいつのことを観察してよく覚えておく。自分の心に焼き付けておく。いつか作品で勝手にそいつの魂を切り貼りして使う。嫌な奴ってなかなかあれで書くの難しいから」
「ふーん」