むべやまかぜを
四 舞台は雪の多い小さな公国。イラストを発注する場合はドイツの古城を参照。
「丸山さん、絵も描くんだね」
龍川は少女をまぶしそうに見ている。傘の上ではぽつぽつと小雨が爆ぜる音。
「あ? ああ。絵ね。うん」
――キャラの名前はすぐに送るとして、先にキャラクターの雰囲気を伝えとくわ。イラストにはホワイトボード、コピーをしたのを送っといて。
丸山花世は頭の中に浮かんでいたキャラクターの絵をホワイトボードの上に描いて説明をしていた。
――一人は赤毛。ショート。髪の毛は癖があって、こんな感じ。一人は金髪ね。髪の長さはロングで。ひっつめてデコ出しているバージョンと、それから普通に下ろしているバージョンと二つ。最後のは髪は黒、あるいは、青系。ボブカットにしようかと思うんだ。背の高さ、体格については……こんな感じで、赤毛の子は身長百六十センチぐらい。で、黒髪が身長で百七十センチぐらい。女王陛下はその中間……百六十五センチぐらい?
龍川はホワイトボードの上に描かれたキャララフを思い出している。
「ずいぶんと、綺麗な絵を描くんだね。マンガ家になったほうがよかったんじゃないの?」
「マンガ家? 面倒だからいいよ。トーン切り貼りするのしんどいし」
少女は空いている右手を振って言った。物書きヤクザは基本面倒くさがり。
「前に伊澤さんが言っていたことだけれど、いい文章を書く人は絵を描かせてもうまいんだとか。実際、マンガ家の人とか良い文章書く人、多いし」
「そうかね?」
少女は首をかしげた。そんな話は聞いたことがない。
「いい絵を描く人は歌もうまいし、踊りもうまい」
「……」
花世は変な顔をしている。絵と文章はもしかしたら関連があるかもしれない。だが、絵がうまい人間と歌や踊りがうまいというのは明らかに関連性にかけている。だとすればゴッホやゴーギャンは盆踊りが得意だったのか。リアルプロ盆踊らー、ポール・ゴーギャン。そんなことがあっていいのか。
「私は、あんまり踊りはしないけど」
「伊澤さんの説だよ。けれど、筋肉を統括しているのは脳なわけで、指先の筋肉に上手に命令を出せる脳は、足の筋肉や声帯にも正確な情報を出せることができるわけで。だから、伊澤さんが言っていることも正しいと思うんだ」