むべやまかぜを
伊澤が後を継いで言った。
「そのあたりのことは丸山さんにまかせましょう。好きにやってください」
少女は一瞬だけ沈思した。物書きヤクザも多少は恥というものを知っているのだ。確かに、エロラノベを読んでいる女子高生を彼女は見たことがなかったのだ。
「あー、まあ、とにかく、そういうことで。名前についてはあとで送るとして、先にキャラの設定だけ、今、ここで作っちまいましょ!」
丸山花世は気を取り直して言った。時間は限られている。
「それで、ですね、えーとまずはキャラなんだけど、名前はともかくとして、外観であるとかはもう決めた」
新米少尉殿の説明に古参兵たちは身を乗り出して話を聞く。新米と侮るなかれ。この娘はたいした人物なのだ。
丸山花世は説明を開始した――。
「もうこんな時間か」
龍川綾二はそのように言った。三月の有楽町はすでに日が暮れている。丸山花世はちょっとぼんやりした表情のまま歩き続ける。JRの駅までは徒歩で十分ほど。ちなみに山田と伊澤のコンビは何か用があるとかでペルソナマガジン社の前で別れている。
小雨が降ったりやんだり。
龍川は傘を持っておらず、そこで、物書きヤクザの傘に入れてもらっている。もっとも、ガテン作家の幅のある体は丸山花世の傘には少し納まりが悪い。
「案外あっさりと決まってしまったよね。丸山さん、話、ホントはちゃんと作ってきていたんじゃないの? なんか説明に迷いとかも全然なかったし」
「え? あ、いや。そんなことないんだけれど」
少女は傘の柄を握ったまま言った。
作品の内容についてはそちらで適当にやってください。岡島のリクエストは簡単。であれば、あとは小娘の仕事。丸山花世が会議の場で提示した作品の指針は以下の通り。
一 編集殿の要望その他から物語はファンタジー系のものとする。
二 魔法であるとか、作中に登場するモンスター、クリーチャー等は、先人たちの作ってきた小説、マンガ、ゲーム等から見繕って『パクる』『リスペクト』ではなく『パクる』。
三 主人公、あるいはヒロインとなる女性陣は全部で三人。名前についてはカタカナ名とする。その際に、キャラ名は難解なものを避ける。キャラ名に関しては翌朝までに各人に通達の予定。